「最近、愛猫がよく水を飲むなぁ…」
「おしっこの量が増えた気がする…」
「食欲はすごいあるのに、やせてきている…」
などの症状は、中高齢以降の猫でよくあり、甲状腺機能亢進症という病気が潜んでいる可能性があります。
先日、以下のツイートをしました。▼
同じ甲状腺の病気でも、
犬→機能低下症
猫→機能亢進症
になりやすいです。
甲状腺ホルモンは別名「元気が出るホルモン」なので、犬はぐったりで太る、猫はランランでガリガリなイメージ。
症状はゆっくり進行するので、毎日一緒にいると気づかないことも多い。
飲水量や食欲、元気をいま一度チェック— トラまりも@まりも動物病院 (@toramarimo_blog) June 9, 2021
同じ甲状腺の病気でも、
犬→機能低下症
猫→機能亢進症
になりやすいです。
甲状腺ホルモンは別名「元気が出るホルモン」なので、犬はぐったりで太る、猫はランランでガリガリなイメージ。
症状はゆっくり進行するので、毎日一緒にいると気づかないことも多い。
飲水量や食欲、元気をいま一度チェック
この記事では、
- 猫の甲状腺機能亢進症とは?
- 診断や治療方法は?
- 予後や寿命ってどうなの?
など、猫の甲状腺機能亢進症について、分かりやすく解説していきます。
愛猫の不調が気になる場合、甲状腺機能亢進症と診断された場合などは、ぜひ読んでみてください。
目次
猫でよくある病気『甲状腺機能亢進症』とは?
甲状腺とは、喉のところにあるホルモンを分泌する器官です。
この甲状腺の機能が、なんらかの原因により亢進してしまった病気が『甲状腺機能亢進症』です。
猫の甲状腺機能亢進症は、中高齢以降の猫でよくみられる病気です。
犬の甲状腺機能亢進症はめったにありません。
代わりに逆の病態『甲状腺機能低下症』という病気にはよくなります。
この甲状腺機能低下症の治療のために、甲状腺ホルモン製剤を飲むのですが、それによって甲状腺機能亢進症になってしまうことはあります。
犬の甲状腺機能低下症はこちらを参考にしてください。▼
猫の甲状腺機能亢進症~3つの原因
猫の甲状腺機能亢進症の原因は主に3つあります。
①甲状腺の結節性過形成
過形成とは、正常組織と同じように細胞が増殖したもので、良性の肥大です。
②甲状腺腫
甲状腺が良性の腫瘍によって大きくなることによります。
【過形成と腫瘍の違い】
- 過形成→正常組織が増えたもので、細胞や構造は正常そのもの
- 腫瘍→正常ではない細胞が増殖したもの
③甲状腺がん
甲状腺のがんによって、甲状腺が異常にホルモンを出してしまうこともあります。
猫の甲状腺機能亢進症の症状はたくさんある
甲状腺から出る『甲状腺ホルモン』が過剰になることで様々な症状が出ます。
- おしっこが多量のため、よく水を飲む(多飲多尿)
- よく食べるのにやせている
- 食欲が低下する場合もある
- よく鳴く(夜鳴きや夜寝ないなど)
- 声がかれている
- 眼がギラギラしている
- 活動的
- 脱毛
- 被毛粗剛(ボサボサ)
- 下痢や嘔吐
また、のど元を触ると、腫大した甲状腺が触れることもしばしばあります。
甲状腺ホルモンは、別名『元気が出るホルモン』とも言われています。
そのため甲状腺ホルモンが増えると、全身の代謝が異常に上がってしまい、よく食べる・よく鳴くなど活動的な症状が出ます。
飼い主様の稟告と、特徴的な見た目により、「あっ!甲状腺機能亢進症かも!」と分かることが多いです。
猫の甲状腺機能亢進症はT₄の増加で診断
猫の甲状腺機能亢進症は、血液検査にて甲状腺ホルモンの値(T₄もしくはfT₄)が増加していることによって診断します。
T₄が5μg/dL以上で甲状腺機能亢進症と診断ができます。
血液検査では他に、
- ALT、ALPなど肝酵素が高い
- Htが高い(脱水している)
などがみられることも多いです。
ちなみに、甲状腺機能亢進症の初期の場合や併発疾患があるときには、甲状腺ホルモンの値が正常値のこともあるので注意が必要です。
甲状腺ホルモンは、
- 他の薬の影響(鎮痛薬、消炎剤、ステロイドなどいろいろ)
- 併発疾患がある(糖尿病やクッシング症候群など)
- 麻酔や手術の影響
により、見かけ上の値が低下することがあります。
この病態を『ユウサイロイドシック症候群』と言います。
猫の甲状腺機能亢進症の3つの治療法
猫の甲状腺機能亢進症の治療法は3つあります。
①抗甲状腺薬の投与
チアマゾールという甲状腺ホルモン産生を抑える薬を飲みます。
チアマゾールは、
- 嘔吐や下痢
- 食欲低下
- 体(特に顔)がかゆくなる
などが副作用として出ることもあります。
薬によって完治することはないので、生涯にわたる投与が必要です。
②外科手術
甲状腺を摘出することで治療する場合もあります。
- 甲状腺が明らかに腫れて、生活に支障をきたす場合
- 甲状腺がんが疑われる場合
- 内科療法でコントロールができない場合
- 日々の投薬が難しい場合
- 薬の副作用が出る場合
などのときには外科手術も検討します。
③食事療法
猫の甲状腺機能亢進症は、食事を変えることでも治療が可能です。
甲状腺ホルモンの元となるヨウ素が適切に制限されているため、いつもの食事をy/dに変えるだけで甲状腺機能亢進症の治療ができます。
療法食を使用する際には、薬の投与量も変わってしまうので、主治医の先生と相談して決めるようにしましょう。
一般的には、食事だけで甲状腺ホルモンの数値を改善することは難しいので、軽度の甲状腺機能亢進症のときや、投薬治療の補助として用いることが多いです。
猫の甲状腺機能亢進症を治療する際の注意点
猫の甲状腺機能亢進症は、中高齢以降の猫で発生することが多いです。
中高齢以降の猫では、同時に慢性腎臓病を患っていることが多いです。
甲状腺機能亢進症があると、腎臓の血流量が増えるので(甲状腺ホルモンは代謝をあげるホルモンなので)、見かけ上腎機能が正常にみえることがあります。
そのため、甲状腺機能亢進症の治療をすると腎臓の血流量が減り、腎臓病が悪くなってしまうことがあるので、2つの病気の治療のさじ加減が重要です。
猫の甲状腺機能亢進症の予後
猫の甲状腺機能亢進症の予後は、慢性腎臓病を併発しているかどうかによって異なります。
慢性腎臓病を併発していなければ、治療によって予後は良好です(生存中央値5.3年)。
【まとめ】猫の甲状腺機能亢進症は早期発見・早期治療が大切!
猫の甲状腺機能亢進症は、中高齢の猫がよくなるホルモンの病気です。
多飲多尿や食欲があるのにやせているといった症状がよくみられます。
血液検査にて診断し、主に投薬にて治療を行っていきます。
基本的には、予後が良好ですが、腎臓病を併発していると、コントロールが難しくなります。
甲状腺機能亢進症を予防することは難しいので、早期発見・早期治療に努めるようにしましょう!
【参考資料】
- 辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,猫の治療ガイド2020,EDUWARD Press,p413-p414