腎泌尿器・内分泌 PR

【猫のBUN 血中尿素窒素】正常値や高い/低い場合の対処法を獣医師が解説!

猫のBUNの正常値や高い/低い場合の対処法

「猫といえば腎臓病」というくらい、ネコちゃんは腎臓が悪くなりやすい動物です。

というのも、もともと砂漠に住む動物だったので、尿を濃くする必要があり、結果として腎臓に負担がかかるようになってしまったためです。

腎臓を評価する指標の一つに「BUN(血中尿素窒素)」という項目があります。

このBUNという数値ですが、腎臓病以外にも、いろんな状況で上がったり下がったりします。

この記事では猫のBUNについて、

  • 基準値はどれくらい?
  • 高い場合、低い場合にはどういった意味があるの?
  • BUNを改善する方法

などを解説いたします。

愛猫のBUNがちょっと悪い数値だった…という場合には、慌てずに読んでみてくださいね。

BUNとは?猫での基準値は15~33mg/dL

猫のBUNの基準値は検査機関によって異なる

BUNは血中尿素窒素と言い、血液中の尿素(主にタンパク質が分解されてできた物質)のことです。

トラまりも
トラまりも
厳密には、尿素に含まれる窒素成分のことです。バンとかブンとか呼んでいる飼い主様もいるけど、そうは言わずにビーユーエヌと呼ぶよ。

通常、尿素は腎臓でろ過されて尿中に排泄されます。

猫のBUNの基準値は検査機関によって多少の違いがあります。

各検査機関によるBUN参照値の違い▼(単位:mg/dL)

Fuji DriChemシリーズ IDEXX
9.2~29.2 9~30
17.6~32.8 15~33
トラまりも
トラまりも
猫のBUNのおおよその正常値は15~33mg/dL程度と覚えるといいです。

猫のBUNが高いときの9つの原因

猫のBUNが高いときの9つの原因

「BUNが高い=腎臓が悪い」と思われる飼い主様は多いですが、必ずしもそういうわけではありません。

BUNが高いときの理由としては、

  1. 腎機能の低下
  2. 食事の影響
  3. 脱水をしている
  4. 心臓が悪い(循環不全)
  5. 消化管内の出血
  6. 溶血の影響
  7. 薬剤の投与
  8. 異化亢進(発熱、腫瘍、重度感染症など)
  9. 尿路の閉塞、破裂

といった様々な原因が考えられます。

トラまりも
トラまりも
BUNが高くなる原因は、腎臓以外にもたくさんあるんだね!何が原因なのか?を見極める必要があるんだ。

それぞれ分けて説明していきます。

①腎機能の低下

BUNが高いときに真っ先に浮かぶのが「腎臓が悪いのかな?」ということだと思います。

  • 腎臓での血流障害(血栓や梗塞;こうそくなど)
  • 糸球体疾患(糸球体腎炎など)
  • 尿細管・間質疾患(急性尿細管壊死など)

などにより腎臓の機能が低下してしまい、うまく尿素を排出することができずにBUNが高値となってしまいます。

BUNは腎機能が25%以下まで低下しないと高値になりません。
トラまりも
トラまりも
かなり腎臓が悪くならないとBUNは高くならないんだね。
トラまりもの猫の腎不全 猫はほぼ腎不全になる!早期発見で健康に過ごす方法
【猫の腎不全】慢性腎臓病は早期対策が必須!獣医師が症状や治療法を解説!猫は腎不全によくなります。多飲多尿の症状で気づくことは多いですが、その時点で腎機能は残り25%程度しか残っていません。この記事では、猫の腎不全を早期発見できる方法を解説しています。...

BUNは腎機能評価の鋭敏な指標とはならない

BUNは上記でもお伝えした通り、残りの腎機能が25%以下まで低下しなければ高値になりません。

そのため、BUNが高くなったときには、すでにかなり腎機能が落ちていることになります。

一方で、SDMA(対称性ジメチルアルギニン)は腎機能が40%(早いときでは25%)喪失した時点で感知できる血液検査項目です。

他の腎臓マーカーより早く感知できるので、腎臓病の早期発見が可能となり、進行を遅らせるための様々な対策をとることができます。

猫では従来より9.8か月も早く腎臓病を発見できると言われています。

トラまりも
トラまりも
SDMAはどこの動物病院でも検査できるよ!

②食事の影響

BUNはタンパク質を分解したときに生じるものなので、食後はBUNが高くなることがあります。

また、高タンパク質の食事をとっている場合にもBUNは高くなります。

③脱水をしている

脱水により循環血液量が減少すると、腎臓に行く血液量も減少します。

その結果、うまく尿素を排せつすることができず、BUNが高くなります。

高齢のネコちゃんは甲状腺機能亢進症糖尿病という脱水を起こしてしまう病気になりやすく、高BUNがみられることがあります。

④心臓が悪い(循環不全)

心疾患などで心拍出量が低下すると、腎臓へ行く血液量が減るのでBUNが高くなります。

⑤消化管内の出血

消化管内で出血が起こると、腸管内で血液が分解されてアンモニアが発生します。

アンモニアは尿素に代謝され吸収されるため、消化管内出血によりBUNは高い値となります。

ただし腎機能が正常の場合には、出血によるBUNの上昇は必ずしも明らかではないです。

⑥溶血の影響

測定方法によっては溶血(赤血球が何らかの理由で破壊された状態)の影響を受け、BUNが高くなることがあります。

⑦薬剤の投与

薬の影響でBUNが高くなることもあります。

  • 抗生剤(テトラサイクリン系、アミノグリコシド系など)
  • 非ステロイド系抗炎症薬
  • ステロイド系抗炎症薬
  • 免疫抑制剤
  • 抗がん剤
  • 造影剤

⑧異化亢進(発熱、腫瘍、重度感染症など)

手術や腫瘍、重度感染症などにのときには、炎症性サイトカインや副腎皮質ホルモンなどが過剰に分泌されます。

トラまりも
トラまりも
炎症性サイトカインとは、炎症反応を引き起こす生理活性物質のことで、体を守る働きをしているよ。

その結果、酸素消費量の増大、脂肪やタンパク質の分解亢進といった異化亢進状態となりBUNが高くなることがあります。

⑨尿路の閉塞、破裂

腎臓より下部の尿路(尿管、膀胱、尿道など)に閉塞や破裂が生じ、BUNが高くなることもあります。

猫の尿道閉塞はある日突然やってくる

閉塞や破裂などの原因は、主に結石や炎症産物です。

猫のBUNが低いときには問題にならないことも

猫のBUNが低いときには問題にならないことも

BUNが低いときには、あまり問題とならない場合が多いです。

ただし、

  • 肝臓が悪い(門脈体循環シャント、肝不全など)
  • 低タンパク食を食べている
  • うまく食事をとれていない
  • 多尿である(療法食を食べている場合も含む)

といったときにもBUNが低下するため、他の検査数値と合わせて評価する必要があります。

高窒素血症(高BUN)のトラブルの場所による分類

高窒素血症(高BUN)のトラブルの場所による分類

BUNの高値は体のトラブルを起こしている場所により、

  • 腎前性(腎臓より前に原因がある)高窒素血症
  • 腎性(腎臓に原因がある)高窒素血症
  • 腎後性(腎臓より後ろに原因がある)高窒素血症

という3つに分類します。

トラまりも
トラまりも
BUNが高い原因がどこにあるのかで分類しているんだよ!

高BUNの診断をして行く過程で、「腎前性、腎性、腎後性」を鑑別していくことはとても重要です。

腎前性高窒素血症

腎臓より前に原因があって生じる高窒素血症(高BUN)は、腎臓に行く血流量が減ることによります。

上記で説明したBUNが高くなる原因のうち、

  • 食事の影響
  • 脱水をしている
  • 心臓が悪い(循環不全)
  • 消化管内の出血
  • 異化亢進(発熱、腫瘍、重度感染症など)

が腎前性の高窒素血症の原因となります。

トラまりも
トラまりも
腎臓病の指標となるクレアチニン(Cre)の上昇が軽度でBUNが突出して高いときには腎前性であることが多いよ!

腎性高窒素血症

腎臓自体に原因があってBUNが高くなっている状態です。

  • 腎機能の低下
  • 薬剤の投与

によって腎性高窒素血症は生じます。

腎後性高窒素血症

腎臓より下部の尿路(尿管、膀胱、尿道など)に原因があってBUNが高くなっている状態です。

  • 両側尿管の閉塞
  • 膀胱や尿道の閉塞・破裂
  • 骨盤内の腫瘍

などにより、尿として尿素が排泄できなくなり、BUNが高くなってしまいます。

トラまりも
トラまりも
腎後性は画像検査や何度もトイレに行くと言った稟告で分かることが多いよ!
【猫のおしっこが出ない!】なんどもトイレに行く理由と緊急時の見分け方
【猫のおしっこが出ない!】なんどもトイレに行く理由と緊急時の見分け方「愛猫がなんどもトイレに行きます…」 「愛猫がトイレで寝ています…」 「陰部をしきりになめています…」 などは、猫のお...

猫のBUNが基準値から外れた場合に行う検査

猫のBUNが基準値から外れた場合に行う検査

BUNが基準値から外れた場合には、何が原因なのか?を追加検査で診断していく必要があります。

  • 稟告(元気食欲は?尿量は?吐いたり下痢はあるのか?…)
  • 血液検査(BUN、Cre、P、Caなど含め全身の評価)
  • レントゲン検査(腎臓の大きさや尿路結石の有無)
  • エコー検査(腎臓の内部の状態、腎盂の拡張度合い)
  • 血圧測定(腎臓が悪いと高血圧になる)
  • 尿検査(尿比重や尿タンパク質の有無)
  • 糞便検査(出血はないか?)

ネコちゃんの状態によっては検査項目が少なくなったり、CT検査や造影検査なども加わる場合もあります。

また、オス猫に多い尿道閉塞の確認をするために、尿道からカテーテル挿入ができるのかを確認することもあります。

トラまりも
トラまりも
健康診断などで偶発的にBUNの高値が分かった場合には、絶食8時間以上で再検査をする場合もあるよ。 

猫のBUNを下げるための4つの方法

猫のBUNを下げるための4つの方法

猫のBUNを下げるためには、まずは原因が何なのか?を見つけることが重要です。

原因に合ったそれぞれの治療を行い、改善があるかをみていきます。

あまりにも高値の場合には、入院による点滴管理や投薬治療が必要となります。

特に臨床症状がなくても、高値の場合には薬や食事による治療を行うことが多いです。

以下では、腎臓が原因でBUNが高いとき(腎性高窒素血症)の治療法や食事療法を解説していきます。

①薬やサプリメントによる治療

腎臓病で使う薬は、その病期のステージによって変わります。

  • 降圧剤
  • 利尿剤
  • カリウムやリンを下げる薬
  • 活性炭(血中の老廃物を腸で吸着して、便で出させる)
  • ステロイドなど免疫抑制剤(腎臓の炎症を抑えるため)
  • 腎性貧血の注射
  • 活性型ビタミンD
  • べナゼプリル(腎臓の糸球体の血圧を下げ、腎臓の負荷を軽減する)
  • 食欲増進剤
  • 制吐剤
  • 腸内細菌を整える(腸腎連関)
トラまりも
トラまりも
腎臓病で使う薬はたくさんあるから今度別記事にまとめるね。

②皮下補液による治療

皮下補液をすることで腎臓に行く血液量が増え、毒素を体の外に出すことができるため、体がとっても楽になります。

トラまりも
トラまりも
自宅での皮下補液は、やっている動物病院とやっていない動物病院があるよ。主治医の先生に確認してみよう! 

③食事による治療

BUNが高い原因が腎臓にある場合は、腎臓病用の療法食に変えることをおすすめします。

獣医療法食評価センターの療法食ガイドラインには、慢性腎機能低下の場合には、

  • リンとタンパク質を制限、高品質なタンパク質を使用
  • 窒素含有成分の吸収を低減

の少なくともいずれかを満たすこととされています。

リンを制限する意味

腎機能が低下すると、

  • リンがうまく排泄できなくなる
  • ビタミンDを活性化できなくなる

と言ったことが生じます。

血液中のリンが増えると、パラソルモン(上皮小体ホルモン:カルシウムとリンの調整をしているホルモン)の分泌が亢進し、リンを下げようとする代わりに、カルシウムの吸収が促進されます(カルシウムが高くなる)。

犬の甲状腺の位置

カルシウムが高くなると腎臓の石灰化が起き、腎機能のさらなる低下を生じます。

また、腎臓はビタミンD(カルシウムとリンの調整をしている)を活性化する作用もありますが、それが低下すると腸管からのカルシウム吸収が抑えられるので、結果として上皮小体ホルモンの分泌が亢進し、上記と同じ現象が起きます。

【参考】カルシウムとリンを調整しているホルモンの関係▼

カルシウム リン
パラソルモン 上げる 下げる
カルシトニン 下げる 下げる
ビタミンD 上げる 上げる

 

タンパク質を制限する意味

腎機能が衰えてくると、タンパク質の代謝で生じる尿素がうまく排せつできなくなります。

そのため、タンパク含量を抑えた食事をあげる必要があります。

トラまりも
トラまりも
タンパク尿自体も腎臓にダメージを与えちゃうからね…

ただ、タンパク質は体を作るうえで大切な栄養素なので、過度に制限する必要はありません。

適切な療法食を主治医の先生とご相談の上あげるようにしてください。

④飲水させる

腎臓が悪いときは、水を飲ませることで老廃物を尿として出すことができます。

ただ、なかなか水を飲んでくれないんですよね…

トラまりも
トラまりも
無理にあげるとストレスになったり、誤飲しちゃうこともあるからね。

こちらの記事でネコちゃんに上手に水を飲ませる方法を解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。▼

脱水の治療と対策~飲水・皮下補液・静脈点滴
「猫が水を飲まない」5つの理由と飲ませ方10選【簡単にできる!】腎不全や夏場などは、愛猫に水を飲んでほしいですよね。この記事では、猫が水を飲まないときの理由や水の飲ませ方を10つ紹介してます。愛猫に水を飲んでもらいたい飼い主様は、ぜひ読んでみてください。...

【まとめ】猫のBUNの正常値や高い/低い場合の対処法

猫のBUNは、腎疾患以外にも脱水や食事の影響、心疾患など様々な理由で高値となります。

BUNだけで判断することはできないので、他の検査項目もあわせて総合的に診断していきます。

BUNを下げるためには、食事療法や皮下補液など様々な方法があります。

主治医の先生とご相談して決めるようにしましょう!

トラまりものペット講座TOPに戻る

トラまりも
トラまりも
トラまりもTwitterではペットに関する豆知識を発信中!気になる方はトラまりも(@toramarimo_blog)をフォローしてね♪

【参考資料】