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【猫の急性/慢性膵炎】原因や症状、治療法や予後などを獣医師が解説!

【猫の急性/慢性膵炎】原因や症状、治療期間などを獣医師が解説!

「愛猫がなんとなく元気や食欲がないんです…」

「体重がちょっとずつ落ちてきたような…」

「猫の膵炎ってどんな症状なんだろう…」

猫の膵炎は、症状がパッとしないことが多く、気が付きにくい病気です。

そんなネコちゃんの膵炎について、先日以下のツイートをしました。▼

犬では急に吐いたり、腹痛があったりと強い症状をみせる急性膵炎が多いですが、猫では何となく元気や食欲がない…というパッとしない症状の慢性膵炎が多いです。

慢性膵炎は、急性膵炎になったり糖尿病に移行することもあり治らない病気。
何となくいつもと違う…は、病気のサインであり受診が必要

トラまりも
トラまりも
何となくいつもと違う…という症状が「実は膵炎だった!」ということはあります。

この記事では、猫の膵炎について、

  • 原因や症状とは?
  • どんな治療をするの?
  • 予後と予防法について

などを解説しています。

猫の膵炎についてしっかり理解して、対処法や予防を知りたい飼い主様は、ぜひ読んでみてくださいね。

猫の膵炎の原因は不明

猫の膵炎の原因は不明

猫の膵炎の原因はよく分かっておらず、

  • 遺伝
  • ストレス
  • 感染症
  • 外傷

などが関与しているのでは?と言われていますが、実際のところ不明です。

膵炎とは膵臓に起きる炎症のことで、急性膵炎と慢性膵炎があります。

そもそも膵臓とは、

  • 消化酵素である膵液(トリプシン、膵リパーゼ、膵アミラーゼなど)を出す外分泌作用
  • ホルモン(インスリンやグルカゴンなど)を出す内分泌作用

がある臓器です。

急性膵炎とは、その名の通り膵臓に起こる急性の炎症のことで、膵臓が出す消化酵素によって膵臓や付近の臓器が溶かされてしまい、炎症が体中に広まってしまう病気です。

トラまりも
トラまりも
自分の消化酵素が、自分の体を消化(溶かす)しちゃうんだね…

急性膵炎は亡くなってしまうこともある怖い病気ですが、治療によって治る可能性も大いにあります。

一方で慢性膵炎とは、慢性的に膵臓に炎症が生じ、膵臓の線維化または萎縮などで組織がもとに戻らなくなってしまう病気です。

慢性膵炎は徐々に進行して亡くなるまで治りません。

犬では急性膵炎が多く、猫ではそのほとんどが慢性膵炎であると言われています。

猫の慢性膵炎は、一気に悪くなって急性膵炎と同じような病態をたどることもありますし、糖尿病に移行してしまうこともあります。

猫においては三臓器炎がよく起きる

猫においては膵炎が単発で起きることもありますし、三臓器炎(さんぞうきえん)という、

  • 肝臓(胆管炎、肝リピドーシス、炎症性肝疾患、胆管閉塞など)
  • 膵臓(膵炎)
  • 腸(炎症性腸疾患、腸管リンパ腫など)

3つの臓器に併発して炎症が起きることがしばしばあります。

トラまりも
トラまりも
この3つの臓器は近くにあるため、炎症が飛びやすいんだ。

膵炎と診断された猫の50~56%が三臓器炎になっているという報告もあります。

他にも、

  • 糖尿病
  • ビタミン欠乏症
  • 腎炎
  • 肺血栓塞栓症

といった病気を併発することもあります。

猫の膵炎の症状は分かりにくい

猫の膵炎の症状は分かりにくい

猫の慢性膵炎の症状は、慢性的に食欲や元気がない、体重が少しずつ減少する…といった分かりづらい症状です。

嘔吐や下痢などの消化器症状が全く見られないこともあります。

ただし、慢性膵炎が一気に悪くなり急性膵炎となると、下痢や嘔吐・腹痛といった症状が見られる場合もあります。

診断は血液検査や画像検査で行う

診断は血液検査や画像検査で行う

猫の膵炎の診断は、血液検査や画像検査などをあわせて、総合的に行います。

血液検査

血液検査においては、膵特異的リパーゼ(Spec-fPL)という膵臓に特異的な消化酵素の上昇が診断に有用です。

トラまりも
トラまりも
リパーゼは体のいろんなところから出る消化酵素。だけど「膵特異的」リパーゼは、膵臓からのみ出る消化酵素だから、膵炎の診断に有用なんだ。

ただし、外注検査になるので、すぐに結果が出ないというのが難点です。

また、軽度の急性膵炎や慢性膵炎に対して特異度は高いが、感度はやや低いという特性もあります。

特異度:病気(この場合膵炎)がない猫を「陰性」と正しく判断する割合。感度:病気(この場合膵炎)がある猫を「陽性」と正しく判断する割合。

院内ですぐに判断できるSNAP-fPLという簡易キットやv-LIP検査(慢性膵炎では感度が低い)というものもあります。

CRPや白血球数、肝臓の数値など他の検査項目もあわせて診断していきます。

超音波検査

膵炎において超音波検査はとても有用な検査です。

  • 膵臓全体の様子
  • 膵管・総胆管の拡張の有無
  • 十二指腸のコルゲートサイン(腸のけいれん)

などの確認を行います。

レントゲン検査

レントゲン検査では、腹膜炎や麻痺性イレウスによる消化管の拡張などが見られる場合もあります。

血液検査やエコー検査に比べると膵炎の感度は低いですが、他の疾患の併発・除外のために有用となります。

治療は対症療法~食事管理も大切

治療は対症療法~治療期間は状態による

猫の膵炎は、原因が分からないことが多いので、対症療法(症状にあわせた治療)がメインとなります。

嘔吐や下痢など強い症状がある場合には、急性膵炎と診断し、以下の様な治療を行っていきます。

猫の急性膵炎の主な治療法
  • 輸液によって脱水やミネラルバランスの改善
  • 吐き気止め(マロピタントなど)
  • 痛み止め(ブプレノルフィン、トラマドールなど)
  • 栄養管理(栄養点滴や強制給餌、カテーテル給餌)
  • 粘膜保護剤(ファモチジンやスクラルファートなど)
  • 抗生物質
  • 抗炎症薬(プレドニゾロンなどステロイド)

以前は、膵炎の治療は絶食がいい!とされていましたが、現在の治療は可能な限り消化管を介した栄養管理(口からの強制給餌や鼻・胃から栄養チューブを介して食事をあげる)を行うべきとされています。

トラまりも
トラまりも
長い期間絶食にすると、腸の粘膜がダメになっちゃったり、ネコちゃん特有の肝リピドーシスという病気になっちゃったりするからなんだ。

食事管理

犬の膵炎においては、低脂肪食が有用とされていますが、猫の場合ははっきりとは分かっていません。

基本的には、なんでもいいので食べてくれることが重要です。

また、肝リピドーシスを起こさないためにも十分なタンパク質を含んだ食事がいいと考えられています。

猫の膵炎の予後と余命

猫の膵炎の予後と余命

猫の膵炎の予後や余命は、炎症の程度や合併症(DICや肝リピドーシス)の有無によって異なります。

重度の合併症がある場合には予後が悪い傾向にありますが、合併症を伴わない症例の多くにおいては適切な治療で改善されます。

トラまりも
トラまりも
慢性膵炎であっても急性経過をたどり一気に悪くなってしまうことがあるから注意が必要なんだ。

【まとめ】猫の膵炎の原因や症状、治療法や予後について

猫の膵炎は、そのほとんどが慢性膵炎と言われています。

症状を示しにくいので、気づいてあげられないこともありますが、定期的な健康診断で早期の発見が可能です。

また、適切な食事と運動によって健康的な体を作っていくことは重要です。

食いつきはいいか?体重は減っていないか?いま一度チェックしてみましょう!

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【参考資料】

  • 犬の治療ガイド2020,辻本元,interzoo,2020
  • P Jane Armstrong,David A Williams,Pancreatitis in cats,Top Companion Anim Med
    . 2012 Aug;27(3):140-7. doi: 10.1053/j.tcam.2012.09.001.
  • P G Xenoulis,Diagnosis of pancreatitis in dogs and cats,J Small Anim Pract
    . 2015 Jan;56(1):13-26. doi: 10.1111/jsap.12274.
  • K W Simpson,Pancreatitis and triaditis in cats: causes and treatment,J Small Anim Pract. 2015 Jan;56(1):40-9. doi: 10.1111/jsap.12313.
  • CLINIC NOTE 猫の疾患総まとめ:後編,interzoo,No164,2019,3月号
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