「愛猫のクレアチニンが高いと言われましたが、腎臓が悪いのですか?」
「クレアチニンが高いと、もとに戻らないんですか?」
「ステージ○○にいるのですが、治療法は?」
など、愛猫のクレアチニンが高い場合には、「腎臓が悪いの?」「もう下がらないの?」などと不安になりますよね。
■本記事の内容
- 猫のクレアチニンの正常値
- クレアチニンが高値となる原因
- クレアチニンを下げる方法
「愛猫のクレアチニンが高いです」と言われた飼い主様は、慌てず読んでみてください。
目次
猫のクレアチニンとは?基準値(正常値)について
血液検査におけるクレアチニン(Cre、CREA、Cr)とは、『腎機能』をみることができる検査の項目の一つです。
クレアチニンは、『クレアチン』という筋肉中にあるアミノ酸から作られ、筋肉を動かし、エネルギーを使った後に出てくる老廃物の一つです。
そのため、クレアチニンの量はクレアチンと比例し、筋肉量と関係しています。
クレアチニンは、腎臓から尿中に排せつされ、再吸収をされないので、糸球体ろ過率を反映しています。
このように、クレアチニンは「血中に老廃物がどれくらい残っているか?」の指標となり、高値の場合には、「腎臓の機能が落ちているのでは?」と推測されるようになります。
ただし、血中のクレアチニンは、糸球体ろ過率が正常の75%程度にまで低下しないと上昇しないとされています。
そのため、腎機能低下の鋭敏な指標とはならないことに注意が必要です。
クレアチニンが高いと腎臓が悪いの?高値の原因
クレアチニンが高値となるのは、上でもお伝えした通り、『腎臓が悪い』ということが最も多いです。
他にも、
- 脱水をしている
- ショック状態
- 心臓が悪い
- 溶血(検査の手技のミス)
- 肉を食べたあと
- なにかしらの薬剤の投与
でも高くなることがあります。
日内変動や食事の影響で高値になることもあるので、絶食時に再検査をする場合もあります。
また、お伝えの通り、クレアチニン値は筋肉量にも影響します。
筋肉量の少ない動物(シニア猫、痩せている子など)では、腎臓病があってもクレアチニンが上昇しにくいことに注意が必要です。
低いときは問題なの?
クレアチニンが低いときには、基本的には、臨床的な意味はありません(問題はありません)。
ただ、
などには、減少することがあり、考慮が必要となります。
Creは腎臓病の早期発見には不向き…SDMAで評価を!
CreやBUN(血中尿素窒素)は上記でもお伝えした通り、腎機能が25%程度にまで低下しなければ高値になりません。
そのため、Creが高くなったときには、すでにかなりの腎機能が落ちていることになります。
一方で、SDMA(対称性ジメチルアルギニン)は腎機能が40%(早いときでは25%)喪失した時点で感知できる血液検査項目です。
他の腎臓マーカーより早く感知できるので、腎臓病の早期発見が可能なので様々な対策が取れ、腎臓病の進行を遅らせることができます。
猫では従来より17か月(1.5~48か月)も早く腎臓病を発見できると言われています。
ただ、グレーゾーン(15~19μg/dL)の場合には、すぐに「腎臓が悪い!」となるわけではなく、他の検査数値や臨床症状とあわせて、再検査が必要となります。
結果的には、SDMAだけでなく、BUNやCre、尿検査などをあわせて総合的に評価するようになるということです。
IRIS(International Renal Interest Society)の慢性腎臓病のステージ分類
IRISとは、小動物の腎臓病に対する科学的理解を深めることを目的に設立された国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society)の頭文字をとったものです。
ステージ分類をすることで、
- 慢性腎臓病の治療方針の決定(ステージごとに推奨される治療法がある)
- 飼い主さんが病態や進行のリスクを知ること
が可能となります。
IRISのステージ分類は、診断方法ではなく、あくまでも慢性腎臓病の進行度の基準となるものです。
ステージ | クレアチニン(mg/dL) | SDMA(μg/dL) | 症状 | 残存腎機能 |
1 | <1.6 | <18 | 無症状 | >33% |
2 | 1.6-2.8 | 18-25 | 多飲多尿が出てくる | 33-25% |
3 | 2.9-5.0 | 26-38 | 食欲不振や嘔吐、貧血などが見られる | 25-10% |
4 | >5.0 | >38 | 尿毒症、重篤な臨床症状 | <10% |
さらに、サブステージとして、
- タンパク尿:UPC比で評価(非タンパク尿<0.2、境界的なタンパク尿0.2-0.4、タンパク尿>0.4)
- 血圧:収縮期血圧で評価(正常圧<150mmHg、前高血圧150-159mmHg、高血圧160-179mmHg、重度の高血圧≧180)
を加えて分類していきます。
猫のクレアチニンを下げる方法
猫のCreを下げるためには、まずは原因が何なのかを見つけることです。
原因に合ったそれぞれの治療を行い、改善があるかをみていきます。
また、あまりにも高値の場合には、入院による点滴管理や投薬治療が必要です。
特に臨床症状がなくても、高値の場合は薬や食事による治療を行うことが多いです。
①薬やサプリメントによる治療
腎臓病で使う薬は、その病期のステージによって変わります。
- 降圧剤
- 利尿剤
- カリウムやリンを下げる薬
- 活性炭(血中の老廃物を腸で吸着して、便で出させる)
- ステロイドなど免疫抑制剤(腎臓の炎症を抑えるため)
- 腎性貧血の注射
- 活性型ビタミンD
- べナゼプリル(腎臓の糸球体の血圧を下げ、腎臓の負荷を軽減する)
- 食欲増進剤
- 制吐剤
- 腸内細菌を整える(腸腎連関)
②皮下補液による治療
猫の腎臓病では、皮下補液を行うことがよくあります。
皮下補液をすることで腎臓に行く血液量が増えるので、体がとっても楽になります。
③食事による治療
Creが高い原因が腎臓にある場合は、腎臓病用の療法食に変えることをおすすめします。
獣医療法食評価センターの療法食ガイドラインには、慢性腎機能低下の場合には、
- リンとタンパク質を制限、高品質なタンパク質を使用
- 窒素含有成分の吸収を低減
の少なくともいずれかを満たすこととされています。
リンを制限する意味
腎機能が低下すると、
- リンがうまく排泄できなくなる
- ビタミンDを活性化できなくなる
と言ったことが生じます。
血液中のリンが増えると、パラソルモン(上皮小体ホルモン:カルシウムとリンの調整をしているホルモン)の分泌が亢進し、リンを下げようとする代わりに、カルシウムの吸収が促進されます。
カルシウムが高くなると腎臓の石灰化が起き、腎機能のさらなる低下を生じます。
また、腎臓はビタミンD(カルシウムとリンの調整をしている)を活性化する作用もありますが、それが低下すると腸管からのカルシウム吸収が抑えられるので、結果として上皮小体ホルモンの分泌が亢進し、上記と同じ現象が起きます。
【参考】カルシウムとリンを調整しているホルモンの関係▼
カルシウム | リン | |
パラソルモン | 上げる | 下げる |
カルシトニン | 下げる | 下げる |
ビタミンD | 上げる | 上げる |
タンパク質を制限する意味
腎機能が衰えてくると、タンパク質の代謝で生じる尿素窒素がうまく排泄できなくなります。
老廃物の蓄積を抑えるために、タンパク含量を抑えた食事をあげる必要があります。
ただ、タンパク質は体を作るうえで大切な栄養素なので、過度に制限する必要はありません。
適切な療法食を主治医の先生とご相談の上あげるようにしてください。
④飲水させる
腎臓が悪いときは、水を飲ませることで老廃物を尿として出すことができます。
ただ、水を飲んでと言って飲んでくれれば苦労しないですよね…
猫が水を飲まないときの飲ませ方について書いた記事もあるので参考にしてください。▼
【まとめ】猫のCre(クレアチニン)の正常値や高値となるとき、下げる方法を獣医師が解説!
猫のクレアチニンの正常値は、猫:0.9~2.10mg/dLとなっており、高値の場合には、基本的には腎臓が悪いことが考えられます。
ただ、クレアチニンだけでなく、他の数値や尿検査などと合わせて評価することが大事です。
下げるためには、皮下補液や食事療法、薬やサプリメントなどが有効です。
定期的な検査で、病気の早期発見と早期治療をしましょう!
【参考資料】
- 桃井康行,どうぶつ病院 臨床検査,ファームプレス,2009
- FUJIFILM ホームページ,生化学検査
- 日本獣医腎泌尿器学会,犬と猫の慢性腎臓病の治療