猫の『下部尿路疾患(かぶにょうろしっかん)』という言葉を聞いたことのある飼い主様もいらっしゃると思いますが、これは猫の膀胱や尿道に生じる病気の総称です。
下部尿路疾患は、多くの猫がかかる病気であり、また、ときとして命にかかわることもあるため、その対策はとても重要です。
この記事では、猫の下部尿路疾患について、原因や症状、治療や対策などについてお伝えしています。
『おしっこはしっかり出ていますか?』
『おしっこの検査を受けたことがありますか?』
猫のおしっこトラブルは予防ができるものも多いですので、ぜひご参考になさってくださいね。
目次
猫の下部尿路疾患とは、膀胱や尿道に生じる病気
猫の下部尿路疾患とは、膀胱から尿道にかけての『下部尿路』に生じる病気のことを言います。
※上部尿路疾患とは、上部尿路(腎臓と尿管)に生じる病気を言います。
病気の原因としては、
- 食事内容
- ストレス
- 体質
- 運動不足
- 肥満
- 水分摂取の低下
…などがあり、これらがからみあって発症します。
また、猫は飲水量がもともと少なく、排尿回数も少ない動物であるがゆえ、おしっこが濃くなる傾向にあります。
そのため、おしっこに結晶(ミネラル成分)や菌がたまりやすく、排尿トラブルがよく生じます。
下部尿路疾患は、年齢問わずなりますが、特に中高齢の猫で多く生じる傾向にあります。
※下部尿路疾患の一つである『特発性膀胱炎』は、若齢~中高齢期に発症する傾向が強く、高齢になると落ち着くとの報告もあります。
以下では、猫の下部尿路疾患でよくある病気について、分けてお伝えしていきます。
(特発性)膀胱炎
膀胱炎は、膀胱に炎症が生じる病気です。
犬では細菌が原因で生じる細菌性膀胱炎が多いですが、猫では原因が不明(ストレスとも言われている)の特発性膀胱炎が多く生じます。
特発性膀胱炎(FIC)とは、検査上では明らかな原因がないのにもかかわらず、血尿や頻尿などを示す病気であり、猫の下部尿路疾患においては、最も多いと報告されています。
また、ほとんどの症例が、全く治療をせずとも1~7日間中に症状がなくなることも、特発性膀胱炎の特徴です。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。▼
尿路結石症(尿石症)
尿路結石症は、膀胱や尿道などに結石(ミネラル成分のかたまり)が生じる病気で、ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)とシュウ酸カルシウムがよく見られます。
いずれも、
- 物理的に尿路の粘膜を傷つける
- 感染症を引き起こす
- 尿路につまってしまう
といったことを引き起こします。
小さい結石であり、無症状であるならば、食事療法などを併用しつつ経過を見ていきますが、症状がある、大きい・いくつもあるなどの場合には、外科的に摘出を行います。
尿道閉塞
尿道閉塞は、尿道が結石や炎症産物などでつまってしまい、おしっこが出せなくなる病気です。
ほとんどがオス猫で生じ、冬場の飲水量が減ってしまう時期に多発します。
また、尿道が完全につまってしまうことで、おしっこが出せずに毒素がたまってしまい、命にかかわることもあります。
排尿が全くできず、触診で大きく硬い膀胱が触知されることが特徴です。
尿道閉塞は、様子を見ず、速やかな処置が必要な病気です。▼
猫の下部尿路疾患の症状はたくさんある
猫の下部尿路疾患の症状は、病気によってさまざまあるため、注意が必要です。
以下のような、排尿に関するトラブルが多く生じます。
- 頻尿(トイレの回数が増える、いつもトイレにいる)
- おしっこが出ない、トイレから出てこない
- 血尿(赤やピンクの血が混じる)
- おしっこのにごり
- そそうをする(いろんなところで排せつする)
- 排尿痛(おしっこに際して、ギャーと大きな声で鳴く)
- 陰部を気にしてなめている(陰部周りの毛が濡れている)
- 尿がキラキラしている
- そわそわと落ち着きがない
- 尿のにおいの異常
症状の進行にともなって、元気や食欲が低下、嘔吐や下痢などを生じることもあります。
また、『尿毒症』と言って、からだに毒素がたまってしまい、ぐったりと昏睡状態、ショック症状となることもあります。
猫の下部尿路疾患の診断には、尿検査が重要!
猫の下部尿路疾患を診断するためには、症状と合わせて、尿検査が重要となります。
尿検査では、さまざまな情報を得ることができます。
具体的には、
- pH(酸性、アルカリ性を調べる;結石のできやすさなどが分かる)
- 比重(尿の濃さ;薄いと腎臓の病気の可能性あり)
- 結石(結晶)の有無や種類
- 細菌の有無や種類
- 出血の有無
などを調べることができ、ほかにも、尿糖やケトン体などを調べることが可能です。
また、細菌感染が疑われる場合には、細菌の同定をしたり、薬剤感受性試験(どんな薬剤が効くのか?)を行うこともあります。
あわせて、血液検査や各種画像検査(レントゲン検査や超音波検査、造影検査など)も行います。
- 併発疾患がないかどうか?
- 腫瘍はないかどうか?
- 結石がある場合には、どこにどれくらいあるのか?
- 膀胱や尿道のつまりはないか?
- 器質的(解剖学的)な異常はないか?
などを確認するようになります。
猫の下部尿路疾患の治療法
治療法は、原因や緊急性の有無によって異なります。
急性(緊急性)の症状がある場合には、まずはそちらの解決を試みます。
猫の下部尿路疾患で緊急性がある場合の多くは、尿道閉塞によります。
そのため、速やかな開通が重要であり、尿道からカテーテルを入れるなどして対応します。
結石がある場合で、溶けない石のときやあまりにも大きい場合、緊急性がある場合などは、外科的摘出を行います。
腎臓の数値が悪くなっていることも多く、点滴や皮下補液(背中に液体を入れる循環をよくする)にて治療することもあります。
細菌感染がある場合には、抗生剤の投与も行いますが、これはある程度、長期間の服用が必要なことも多いです。
ほかにも、腫瘍の摘出や会陰尿道瘻(えいんにょうどうろう)といって、オス猫の陰部を大きくする手術を行うことなどもあります。
維持療法(一生涯続くことが多いです)としては、食事の変更や薬の投与などが基本となります。
食事は、ストレスを緩和するタイプのもの、結石を溶かすものなどさまざまあり、獣医師の指示のもと使用をします。
療法食は長期間で使用することが多く、またからだに合っていないと、かえって症状を悪くしてしまうことが多いです。
そのため、獣医師の指示のもと、種類の選択と食べ続ける工夫をする必要があります。
ただ、「療法食を食べないです…」「ほかのフードと混ぜてはいけないのですか?」というお問い合わせもとても多いです。
そのため、「療法食を食べない!」という飼い主様は、ぜひ以下をご参照ください。▼
猫の下部尿路疾患の予防法~飲水させることが重要!
猫の下部尿路疾患においては、予防がとても重要です。
簡単にできるものも多いですので、ぜひ生活に取り入れてみてください。
飲水量を増加させる;最も大切ですぐにできる!
猫の泌尿器トラブルを予防するために、最も簡単ですぐにできる方法は、飲水量を増加させることです。
水を飲むことで、結石のもととなる結晶を排せつさせたり、循環をよくすることができます。
ただ、「水を飲ませてください!」といっても、なかなか飲んではくれないですよね…
そんなときには、食事にウェットフードを与えることがおすすめです。
ウェットフードはその成分の60~80%程度が水分であり、手軽に水分摂取が可能です。
また、嗜好性もよいことから、愛猫の食いつきがいいことも特徴です。
愛猫への水の飲ませ方は、こちらの記事でくわしく解説しています。▼
心臓病などで利尿剤が処方されている場合には、飲水制限がある場合もあります。
なにか薬を服用している場合には、主治医の先生にご確認くださいね。
トイレをきれいにする、たくさん配置する
排せつを我慢することで尿が濃くなり、泌尿器トラブルを生じることは多いです。
そのため、「おしっこをしたい!」と思わせるようなトイレを作ってあげることも重要です。
具体的には、大きくてアクセスのよい、清潔で細かい砂のトイレです。
こちらも以下の記事でくわしく解説しています。▼
獣医師の定期的な診療~尿検査なら、猫は動物病院に行かずともOK!
定期的に健康診断を受けることは、猫の下部尿路疾患を予防するうえで極めて重要です。
何かしらの疾患(クッシング症候群や糖尿病など)がある場合には、尿路感染を起こしやすくなります。
ただ、動物病院に行くことがストレスになる猫はとても多くいます。
とは言っても、特に症状もないのに、無理に連れていくことで、動物病院嫌いになるだけでなく、食欲低下などを引き起こしてしまう子もいることが実際です。
そのため、猫を動物病院に連れて行かずとも、簡単にできる検査である『尿検査』をおすすめいたします。
一般的に、精密検査でない場合には、自宅で採尿した尿で検査が可能です。
システムトイレの場合には、シートを取り除くことで簡単に採尿ができます。
ぜひ定期的(できれば2,3カ月に1回程度;持病がある場合にはもう少し短い間隔で)に行ってください。
もちろん、『元気や食欲がない…』など、全身状態がよくない場合には、一緒に動物病院に行くようにしてくださいね!
肥満もNG!
おしっこトラブルは、どんな猫でもなりますが、特に太っている子や運動をあまりしない子に多く生じます。
そのため、太らせないことがとても重要です。
猫のダイエットは、運動ではなく、食事管理で行います。
また、一気にダイエットをすることで、肝臓に負担がかかってしまう動物であるため、ダイエットはある程度時間をかけて行う必要があります。
以下をご参照ください。▼
ストレスをなくそう!
ストレスは、猫の泌尿器トラブルに大きく影響を与えます。
猫が感じるストレスには多々ありますが、
- 引っ越し
- 家具の配置換え
- 家族の構成(子供の有無)
- 仲の悪い同居猫の存在
- もともと外猫なら、外に出られないこと
- トイレが少ない、汚い
- 飼い主との関係性
…などがあります。
また、もともとの猫の性格(臆病、神経質、攻撃的など)も発症にかかわっています。
ストレスの原因を見つけてそれを(無理のない範囲で)避け、好きなこと(一緒に遊ぶ、気持ちよくお昼寝するなど)を存分にさせてあげましょう。
異変を感じたらすぐに動物病院へ
「何度もトイレに行くけど、様子を見てもいいかな?」
など、動物病院にすぐに行くべきか?様子を見ても大丈夫か?悩まれている飼い主様は多くいらっしゃいます。
一般的に、メス猫の膀胱炎などは、緊急性は低いために、慌てて夜間診療に行く必要がないケースが多いです。
ただし、おしっこが1滴も出ていないとき、ぐったりしているとき、明らかにいつもと様子が異なるときなどは、緊急性のある尿道閉塞の可能性もあります。
愛猫の異変を感じたら、迷わず動物病院にうかがうようにしましょう。
【まとめ】猫の下部尿路疾患の症状や診断、治療法について
猫の下部尿路疾患とは、膀胱と尿道に生じる、猫の泌尿器トラブルのことです。
血尿や頻尿が見られることが多く、症状の進行に合わせて、元気や食欲がなくなることもあります。
尿道閉塞と言って、速やかな処置を行わないことで、命を落とす病気もあります。
『いつもと様子が違うな…』という場合には、速やかに受診をするようにしましょう。
猫の泌尿器トラブルは、定期的な尿検査で防ぐことが可能です。
ぜひ、2,3カ月に1回は、おしっこチェックを受けるといいですね!