「愛犬が健康診断で胆泥症(たんでいしょう)と診断されました…」
「胆泥がたまっていると言われたけど、どうすればいいの?」
「低脂肪食にした方がいいの?」
など犬の胆泥症について、どういう病気なのか?治療はどうするのか?不安や疑問がある飼い主様は多いです。
先日、胆泥症について、以下のツイートをしました。▼
犬の胆泥症(胆のうにどろっとした液体が貯まる)はよくあります。
胆泥があること自体は病気ではないです。
高脂血症があったり、たくさん貯まってる場合などは薬や低脂肪食で様子を見ていきます😊
治療をしていても胆石ができたり、症状がある場合には手術も検討🚑
猫の場合は胆泥は異常、すぐ検査🐱— トラまりも@まりも動物病院 (@toramarimo_blog) March 2, 2021
犬の胆泥症(胆のうにどろっとした液体が貯まる)はよくあります。
胆泥があること自体は病気ではないです。
高脂血症があったり、たくさん貯まってる場合などは薬や低脂肪食で様子を見ていきます😊
治療をしていても胆石ができたり、症状がある場合には手術も検討🚑
猫の場合は胆泥は異常、すぐ検査🐱
この記事では、
- 胆泥症ってなに?
- どうすれば治るの?治療は?
- 予防や対策はできるの?
など『犬の胆泥症』に関する様々な疑問を分かりやすく解決していきます。
目次
犬の胆泥症は、胆のうにどろっとした液体がたまっている状態
肝臓には『胆嚢(たんのう)』という消化液(胆汁;たんじゅう)をためる袋があります。
胆汁は本来サラサラの黄褐色の液体で、食事中の脂肪の消化吸収に関わっています。
食事の刺激によって胆嚢が収縮することで、胆嚢管→総胆管を経て、十二指腸に流れ込んで脂肪の分解を助けます。
この胆汁が、何らかの原因でどろっとした液体になってしまうことがあり、これを『胆泥(たんでい)』と言います。
胆泥がたまる原因として、
などが考えられていますが、実際のところはよく分かっていません。
根本的な原因としては、胆嚢が収縮する能力の低下と言われています。
大体の子が、
- 健康診断
- ALPやALT(肝臓の数値)が高いため、エコー検査をした場合
などに、偶発的に見つかることが多い病気です。
胆泥症のみの症状は『無症状』
胆泥症がたまっているだけの状態では無症状です。
食欲がなくなったり、元気がなくなったり…といった症状は現れません。
ただし、胆汁がドロドロになってうまく排出できない場合や、炎症を起こしてしまったときには、急激に症状を示すこともあり、
- 何度も吐いてしまう
- 元気がなくぐったりする
- 黄疸(白目や耳の内側、おなかなどが黄色くなる)
- 食欲廃絶
- 腹痛や発熱(腹膜炎)
といった症状を示すようになります。
この場合には、緊急的な処置が必要となります。
犬の胆泥症の3つのポイント
犬の胆泥症の3つのポイントは、
- 治療するべきか
- 何(薬や食事)で治療するか
- 手術する(胆嚢を取る)ことはあるのか
だと思われます。
以下で分けて説明していきますね。
①胆泥症は治療するべきか
『胆泥が貯まっている=病気』というわけではないです。
犬においては、単純な胆泥は病気ではなく、加齢に伴う所見なので治療はいりません。
猫においては、胆泥の存在は肝胆道系疾患と関係している場合が多いです。
また、その背景に病気がある可能性があり、精査して治療することが必要です。
ただし、ALPやALTなど肝臓の数値が上昇している場合には、肝臓に疾患がある可能性もあるので精査が必要です。
治療ではないですが、低脂肪のごはんにすることはとてもよく、予防にもなります。
「高脂血症と胆泥症との間に関連性が認められている」、「高脂血症の胆嚢粘液嚢種の犬が、低脂肪食にして半年後に改善している」という論文があります。
Tsukagoshi T.,Ohno K.,Tsukamoto A.,et al.(2012),Kutsunai M.,Kanemoto H.,Fukushima K.,et al.(2014),Aguirre A.L.,Center S.A.,Randolph J.F.,et al.(2007)
脂肪含量を減らして、その分の必要エネルギーは食物繊維で補うタイプの療法食があるので、主治医の先生とご相談の上、試してみるといいです。
また、おやつをあげていることで胆嚢に負担がかかっていることもあるので、おやつは控えたり、野菜など脂肪分が少ないものに変更するといいでしょう。
②治療するなら、どんな薬やサプリですべきか
胆泥があり、血液検査で肝臓の数値が高い場合は、薬やサプリを使用することが多いです。
また、
- 胆泥の貯留が重度
- 非可動性(動かない)の胆泥貯留
のときは、胆嚢疾患へと移行する可能性もあるので、この場合も薬を飲むことが多いです。
何らかの基礎疾患、すなわち、
- 甲状腺機能低下症
- クッシング症候群
- 高脂血症
などは胆泥貯留と関係がある場合も多いので、その治療を行い、あわせて胆泥の経過をみていきます。
基礎疾患の治療をした結果、胆泥が減少したりなくなることもあります。
では以下で、胆泥症のときの具体的な治療薬をみていきましょう。
※ご紹介する薬やその量は一例です。獣医師ごとに内容や処方量は異なります。
ウルソデオキシコール酸
ウルソデオキシコール酸は胆汁酸製剤であり、もともと胆汁中に含まれる成分です。
利胆作用(肝臓での胆汁合成・分泌を促進する)があるので、胆汁の粘度を低下させる可能性があります。
また、肝細胞障害性のあるデオキシコール酸やケノデオキシコール酸などの肝臓内での割合を減らすことにより、肝保護作用が期待できます。
用量:5-15mg/kg(体重1kgあたり、5-15mg投与) po(経口投与) BID(1日2回)
トレピブトン
胆汁分泌作用とOddi(オッディ)括約筋の弛緩作用があります。
用量:1-2mg/kg po BID~TID(1日3回)
メチオニン製剤
メチオニン製剤は、抗酸化物質の産生に関与していて、活性酸素を中和させる役割があります。
エリスロマイシン
低用量のエリスロマイシンは、モチリン様作用(消化管や胆嚢を収縮させる作用)があります。
胆泥は『胆嚢の収縮能力の低下』が原因ではないかと言われているので、モチリン様作用のあるエリスロマイシンが使われることもあります。
用量:1-5mg/kg po BID
抗菌薬(メトロニダゾールなど)
消炎作用もあるメトロニダゾールは、胆嚢疾患に使われることもあります。
用量:7.5mg/kg po BID~TID
クエン酸モサプリド
胃腸運動改善薬ですが、胆嚢の運動性も改善させることができます。
ただし、実際の胆嚢疾患のある犬に投与を行ったデータはないので実態は不明です。
③胆泥症で、胆嚢を取る手術をすることはあるのか
胆泥が貯まっているだけで、手術で胆嚢を取ることはおおよそないでしょう。
胆嚢疾患でなぜ手術を考慮するかというと、
『胆嚢が破裂すると大変なことになる』からです。
【胆嚢って手術で取っても大丈夫なの?】
大丈夫です。
馬、鹿、ラットなど、もともと胆嚢がない動物もいます。
胆嚢は、胆汁の貯蔵庫です。胆汁自体は肝臓で絶え間なく作られているので、胆嚢を取ってもそれほど深刻な影響はないです。
ただ、胆汁を濃縮して貯蔵する場所がなくなるので、小腸に脂肪が入ってきたタイミングで多量の胆汁を一気に出すことができなくなるので、脂肪がうまく分解できず、下痢をしてしまうことはあります。
胆泥の外科的治療に関する統一された見解や適応基準はないので、いつ手術すべきかは、主治医の先生の見解によるところが多いです。
ただ、
- 胆泥の内科的治療(薬やサプリなど)を行っているにも関わらず、胆石症や胆嚢粘液嚢種に発展する場合
- なにかしらの臨床症状が出る場合
- 胆嚢疾患が原因で肝臓の数値がどんどん悪くなる場合
などは手術を検討すべきです。
【まとめ】犬の胆泥症の食事や治療法、手術のタイミング
犬の胆泥症は、症状がない場合には治療をしないことも多いです。
ただし、定期的に超音波検査をして、胆泥の量が増えていないか?血液検査で肝臓の数値は適正か?などを確認する必要はあります。
食事は低脂肪のものに変え、必要に応じて薬やサプリを飲むとよいでしょう。