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【犬の前十字靭帯断裂】原因や症状、治療法を獣医師がくわしく解説!

【犬の前十字靭帯断裂】原因や症状、治療法を獣医師がくわしく解説!

「愛犬が後ろ足を痛そうにしています…」

「ジャンプや階段を嫌がるようになりました…」

そんなときには、後ろ足の靭帯である『前十字靭帯』が断裂している可能性もあります。

前十字靭帯断裂は、自然治癒することがない病気のため、早期の治療が必要です。

この記事では、犬の前十字靭帯断裂について、原因や症状、診断法や治療法などについてお伝えしています。

「愛犬が前十字靭帯断裂と診断されました…」

「前十字靭帯断裂は手術しか治らないの?」

など、愛犬の前十字靭帯断裂について、不安や疑問のある飼い主様は、ぜひ読んでみてくださいね。

犬の前十字靭帯断裂とは?原因について

犬の前十字靭帯断裂とは?原因について

犬の前十字靭帯断裂は、犬の後肢(膝の関節)にある靭帯のひとつである前十字靭帯が断裂してしまう病気です。

前十字靭帯は、膝関節が過度に伸びることを防止し、脛骨(すねの骨)が過度に前方へ動くことと、内旋することを制御しています。

そのため、前十字靭帯断裂が生じると、膝関節の安定性が崩れ、脛骨が前方へ変位し、過度に内旋するようになります。

自然治癒することはなく、慢性関節症が持続する(放っておくと、どんどん悪くなる)病気です。

前十字靭帯断裂の原因としては、加齢性および変性性の変化が靭帯に生じ、それに何かしらのストレス(日常的な散歩や階段の上り下りなど、比較的軽微な運動)が加わることで発症します。

トラまりも
トラまりも
器質的な異常が存在すると、ちょっと走ったり、ジャンプしたり…などで発症しちゃうんだよ。

好発品種もあり、

  • ニューファンドランド
  • ロットワイラー
  • ピットブル・テリア
  • チワワ
  • ボクサー

などが罹患することが多く、「遺伝も関与しているのでは?」と言われていますが、決定的な証拠はありません。

また、膝蓋骨内方脱臼(グレード3以上)が存在することで、断裂しやすいのではないか?とも言われていますが、因果関係は証明されていません。

まれに、スポーツなどの外傷(ほとんどが1歳未満の若齢犬)により断裂することもあります。

犬の前十字靭帯断裂は、反対側の断裂を引き起こすことも多く、両側性の断裂を生じる割合は、12.7~58.6%との報告もあります。

トラまりも
トラまりも
片方の足に発生したら、将来的に反対側もなる可能性があるんだ。

 

前十字靭帯断裂が生じた場合、半数以上の症例において、半月板損傷が併発します。

半月板とは、膝関節にあるクッションの役割のある軟骨で、これの損傷が存在するか否かは、治療法の選択や予後に大きくかかわります。

犬の前十字靭帯断裂の症状は、さまざまな程度の『跛行』

犬の前十字靭帯断裂の症状は、さまざまな程度の『跛行』

部分断裂と完全断裂、急性例と慢性例、半月板損傷の有無によって、さまざまな程度の跛行を呈します。

トラまりも
トラまりも
足を引きずっている、上げているといった症状が見られることが多いよ。

断裂直後の症例においては、膝関節に触れたときに、痛みや熱感が認められます。

犬の前十字靭帯断裂の診断方法は、触診やレントゲン撮影

犬の前十字靭帯断裂の診断方法は、触診やレントゲン撮影

前十字靭帯断裂がを診断するためには、跛行などの症状の観察とあわせて、

  • 脛骨前方引き出し試験(cranial drawer test)
  • 脛骨圧迫試験(tibial compression test)

を行います。

この試験では、脛骨が前方へ動くか否かを確認するものであり、動く場合には、前十字靭帯断裂が示唆されます。

また、膝関節を伸ばしたときに、クリック音(コリッ、パキッという音)が聴取された場合には、半月板損傷を併発している可能性が高いです。

座ったときに、膝関節不完全屈曲(足が流れる状態;シットテスト陽性)が見られることもあります。

触診においては、筋肉量や可動域のチェックなども行います。

 

X線検査や超音波検査、MRI検査や関節鏡検査を行うこともあります。

X線検査においては、fat pad sign(関節液の増量)や骨棘(骨同士の摩擦により生じる)の形成が認めることがあります。

犬の前十字靭帯断においては、

などを併発していることもあり、これらの基礎疾患を診断し、除外しておくことも重要です。

犬の前十字靭帯断裂の治療法

犬の前十字靭帯断裂の治療法

犬の前十字靭帯断裂の治療法は、内科療法(保存療法)と外科療法に大別されます。

なお、

  • 内科療法に反応しない症例
  • 重度な肥満の症例
  • 半月板損傷がある症例
  • 膝蓋骨脱臼がある症例
  • 著しい膝関節の不安定性がある症例

については、初診時においても外科療法が推奨されます。

内科療法(保存療法)

内科療法としては、関節痛の緩和を目的として、NSAIDs(カルプロフェン、メロキシカム、ロベナコキシブなど)の投与を行います。

NSAIDs単独にて十分に疼痛を制御できない場合には、鎮痛補助薬やサプリメントの使用も考慮します。

同時に、

  • 運動制限
  • 体重管理(肥満の症例は、減量が重要)
  • 生活環境の改善(床を滑らないようにする、段差をなくすなど)

を行うようになります。

ただ、内科治療においては、あくまでも『痛みをとること』が治療のメインとなり、小型犬の部分断裂以外にはあまり効果はありません。

さらに、症状が消失した場合でも、また、いずれの治療法を選択しても、膝の安定性が改善するわけではなく、膝の変形(変形性関節症)は進みます。

そのため、生涯に渡った変形性関節症のケアも重要となります。

トラまりも
トラまりも
変形性関節症のケアは、以下で解説するよ。

外科療法

前十字靭帯断裂の外科療法は、膝関節の機能を維持しながら、関節が前に動くことと内旋することを制御することが目的です。

主に、内科療法を行っても良好な反応が見られない場合に実施します。

一般的には、外科療法を行った方が、より早期に回復する傾向にあります。

現在までに、術式として200以上が存在し、主に、

  • 関節内再建術
  • 関節包外制動術
  • 脛骨骨切りによる膝関節の機能的安定化術

に大別されます。

成功率は術者の経験にもよりますが、90%程度と高くなっています。

ただし、あくまでも膝の機能維持が目的であり、断裂した靭帯自体を再建する方法は今のところありません。

関節内再建術(関節内法)

関節内において、損傷した前十字靭帯の代わりに、自己筋膜や膝蓋靭帯の一部、または人工靭帯を用いて、膝関節を安定化させる方法です。

  • 大体筋膜紐法
  • Over the Top法
  • Over the Top変法
  • 人工靭帯法

などがあります。

人においては、関節内再建術の成績は良好であり、治療のゴールデンスタンダードとされています。

関節内再建術では、前十字靭帯と同じ走行での制動ができるため、解剖学的に正しい位置での安定化を図れることがメリットとなります。

ただし、犬においては、移植した組織が十分な強度を得ることができず(強度は対側の1/3未満との報告あり)、脆弱であるとの報告もあります。

そのため、関節包外制動術との併用なども試みられ、安定性の維持に努める方法がとられます。

関節包外制動術

関節包の外側において、側副靭帯や固定糸を用いて、膝関節の安定化を行う方法で、

  • 外側趣旨骨脛骨縫合;lateral fabellotibial suture(LFS法)
  • 腓骨頭転位術(FHT)
  • 外側スーチャーアンカー法(LSA)
  • Tight Rope法

などがあります。

膝関節の制動が良好であり、また特殊な手術器具を多く必要としないこと、手術時間が短いことなどが利点となります。

成功率が高く(90~95%)、重大な合併症が少ないこともメリットとなります。

そのため、広く実施される方法ですが、膝関節の長期的な安定性は、関節の繊維化に依存するため、

  • 高齢
  • 肥満
  • 内分泌疾患のある症例
  • 安静にできない症例

などにおいては、良好な結合組織が生じず、インプラントの破綻を生じる症例が見られます。

※関節包外制動術は、補填した靭帯(側副靭帯や固定糸)は、生涯にわたった大腿骨と脛骨を保持するのではなく、関節周囲の繊維化により安定性を達成するまでの補助として働きます。

また、術後経過を良好にするためには、2週間程度の包帯の使用と、8週間程度の安静が必要となります。

脛骨骨切りによる膝関節の機能的安定化術

脛骨を切ることで、膝関節の安定性を確保する方法です。

多くの動物病院で実施されている方法であり、

  • 脛骨頭側閉鎖骨切り術(CTWO)
  • 脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)
  • 脛骨粗面前進術(TTA)

などが代表的です。

脛骨矯正骨切り術においては、骨の構造を変更することで膝関節にかかる力を変更し、機能的に膝関節を安定化することを目的としています。

トラまりも
トラまりも
骨を切ることで、力のかかるベクトルを変更するんだ!

いずれの方法も、脛骨が前方に推進する力(CrTT)を打ち消すように行われます。

すなわち、前十字靭帯断裂が生じると、前十字靭帯がとめていた脛骨が前方へ引き出されるようになってしまいます。

脛骨が前方へ出ないよう、脛骨上部の骨を切り、大腿骨に対する角度を調整することで、前方に引き出される力を緩和するように調整します。

これらの方法を用いることで、最も早くの機能回復をもたらし、予後が良好と言われています。

犬の前十字靭帯断裂の手術~脛骨矯正骨切り手術

犬の前十字靭帯断裂の手術~脛骨矯正骨切り手術

上記でお伝えしましたが、脛骨矯正骨切り手術には、

  • 脛骨頭側閉鎖骨切り術(CTWO)
  • 脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)
  • 脛骨粗面前進化術(TTA)

があります。

いずれも、脛骨を骨切りし、骨の構造を変更することで、機能的に膝関節を安定化させることを目的とした術式です。

CTWO:脛骨頭側閉鎖骨切り術

CTWOは、近位脛骨からくさび状に骨を取り除くことによって、TPA(脛骨高平部角度)を水平化し、脛骨の前方変位を解消して膝関節の安定性を回復させようとする術式です。

CrTT(脛骨前方推進力)はTPAに比例して大きくなると考えられています。

くさび状に骨の切除をしTPAを緩徐にすることで、負重時に発生するCrTTを小さくすることが可能となり、膝関節を安定化させることができます。

 

CTWOは、専用の器具を必要とせずに、汎用の機器で実施できることがメリットとなります。

また、膝蓋靭帯の付着部分が遠位へ変位するため、大腿四頭筋を遠位にけん引する力が大きくなり、膝蓋骨が大体骨滑車にはまりやすくなります。

そのため、膝蓋靭帯と前十字靭帯断裂した犬の治療に使用が可能となっています。

 

欠点としては、脛骨の近位骨幹部の骨切りによりTPAを矯正しているので、高平部自体を回転させることができないため、術前計画通りにTPAの矯正ができない場合があることです。

また、単独手術後のTPAに関して、再現性が乏しいこともあり、CTWOのみでの治療はすすめられていません。

TPLO:脛骨高平部水平化骨切り術

CTWOと同様、脛骨の高平部を水平化することで、膝関節への負重時に生じるCrTTを減弱させることを目的とした近位脛骨の矯正骨切り術です。

CTWOとの違いは、脛骨の高平部を直接矯正するため、再現性のある手術の実施が可能な点です。

脛骨の近位をドーム状に骨切りし、TPAが緩徐(6.5±0.9°)となるように脛骨近位を尾側に回転させ、負重時に発生するCrTTを小さくすることで、膝関節を安定化させます。

ただ、過度な矯正は、後十字靭帯への負荷を増加させるため注意が必要です。

TPLOは、再現性があること、強固な固定と早期機能回復が可能であることがメリットの術式です。

 

また、構造的な膝関節の安定性を得るため、

  • 内分泌疾患
  • 肥満
  • 過度な活動性

があり、関節外法による関節の繊維化が遅延する症例においても有効です。

欠点としては、この手術でしか使用しない機器をそろえること、またインプラント使用により感染や固定不良の可能性があることがあります。

 

近年では、TPLOの手術を受けた症例において、90%以上の家族から満足が得られているといった報告もあり、再現性のある満足度の高い術式となっています。

なお、TPLO両側同時実施は、脛骨稜の骨折リスクが8.5~9.6倍増加するなど、合併症の発生率が高くなると言われています。

そのため、起立可能な前十字靭帯断裂においては、片側ずつ分けて手術をすることが推奨されています。

TTA:脛骨粗面前進化術

前十字靭帯断裂によって生じるCrTTを、脛骨粗面を前進させることで打ち消す方法です。

膝関節に加わる応力は、膝蓋靭帯とほぼ平行であり、膝蓋靭帯が脛骨高平部に対して垂直に位置する場合には、膝関節に加わる剪断力は消失、つまりCrTTが消失し、膝関節の安定化が得られるという理論です。

膝蓋骨脱臼に対応するため、脛骨粗面転位はTTAと同時に行うことが可能であり、膝蓋骨脱臼と前十字靭帯断裂が併発した症例に適応が可能となっています。

 

CrTTは最大伸展時に最大になり、最大屈曲時に最小になると考えられているため、伸展時(135°)にPTA(膝蓋骨から脛骨粗面へ付着する膝蓋靭帯の角度)が90°となるように変位させ固定します。

TTAは手術による侵襲が低く、TPLOと比較し、大腿骨と脛骨の接触面における関節構造に変化を与えず、手術直後にも関節の動きに制限を加えないこともメリットとなります。

ただ、歴史が浅い術式であるため、長期的な予後に関するエビデンスがほかの手術法に比べると少なく、明確な基準がないことが欠点となります。

犬の前十字靭帯断裂の術後管理~安静が大切

犬の前十字靭帯断裂の術後管理

犬の前十字靭帯断裂の手術後には、膝関節の腫脹を防止する目的で、圧迫包帯を行い、また骨が癒合するまでは絶対安静が必要です。

術後2カ月程度は、階段や過度な運動の制限も行います。

マッサージやリハビリなども行いつつ、十分な歩行能力まで回復するには、2~6カ月程度を要します。

ただし、

  • 内科療法を選択した場合
  • 体重15kg以上の症例
  • 半月板損傷がある場合

などには、関節痛や運動機能の低下が慢性化する場合があることに注意が必要です。

また、必ず変形性関節症(OA)を生じるため、体重管理や慢性痛の管理など生涯に渡るケアが必要となります。

具体的には、

  • 太らせないようにする
  • 床は滑らないように、マットや滑り止めを使用する
  • 段差をなくす(階段やソファーへの上り下りなどは極力なくす)
  • 痛み止めや消炎作用のある薬・サプリメントを用いる

などして対応してあげましょう。

トラまりも
トラまりも
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【まとめ】犬の前十字靭帯断裂の原因や症状、治療法について

犬の前十字靭帯断裂は、さまざまな程度の跛行を示し、放っておくとどんどん悪くなってしまう病気です。

触診やレントゲン撮影などを行い、併発疾患の有無も確認をしながら、診断をしていきます。

内科療法は、関節痛の緩和を目的としており、痛みをとることが治療のメインとなります。

外科療法は、内科療法を行っても反応が見られない場合に行い、さまざまな術式を組み合わせて行います。

術後は安静にして過ごし、体重管理や慢性痛の管理もあわせて行います。

「愛犬の後ろ足が痛そう…」「歩き方が変かもしれない…」という場合には、動物病院を受診するようにしましょう。

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トラまりも
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参考資料

  • 辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,犬の治療ガイド2020,EDUWARD Press,p682-p685
  • SURGEON,148号,Vol25,No4,2021
  • SURGEON,149号,Vol25,No5,2021
  • J-VET,4号,4月号2016