「愛犬の歯磨きがうまくできません…」
「歯磨きをしようとすると、噛みついてきます…」
「歯磨きガムだけでいいですか?」
など、愛犬の歯磨きに関するお問い合わせはよくあります。
■本記事の内容
- 愛犬の歯磨きは必要?不要?
- 愛犬の歯磨きのやり方
- 歯磨きガムだけでも大丈夫?
口の中がきれいだと、おいしく食事ができ、健康寿命も延びる傾向にあります。
「愛犬といつまでもいっしょに過ごしたい!」という飼い主様は、ぜひ読んでみてくださいね。
目次
愛犬が歯磨きを嫌がる…歯みがきは不要?
「愛犬の歯磨きをやりたい!」
と思って歯ブラシを取り出すと、嫌がる…逃げる…噛んでくる…ということはとても多いです。
無理に行うと噛まれてケガをしてしまったり、愛犬との信頼関係が崩れてしまうということもあります。
「嫌がるから歯磨きはしなくてもいいかな…」
と思うこともあるかもしれませんが、人と同じように、ワンちゃんも歯磨きをした方がいいです。
その理由としては、犬は歯周病になりやすいということがあります。
犬は虫歯にはなりづらいが、歯周病になりやすい
犬は人と違って虫歯にはなりづらいという特徴があります。
それは、
- 犬の歯はとがっていること
- 唾液にアミラーゼがほとんど含まれていないこと
- 犬の口腔のpHは8~9と弱アルカリ性であること
といった理由があります。
犬の歯は人の歯と違い、『噛みちぎることに特化した歯』を持っています。
そのため、鋭利で薄い形をしており、そもそも歯垢がつきづらいといった特徴があります。
また、アミラーゼはでんぷんを糖に分解する消化酵素ですが、犬の唾液にはほとんど含まれていません。
それゆえ、虫歯菌(主にミュータンス菌)のエサとなる糖がそもそも少ないために、虫歯にはなりづらいです。
そして、犬の口のpHは8~9と弱アルカリ性であるために、歯垢が歯石に変わりやすいという特徴もあります(人はpH6~7の弱酸性から中性)。
この歯石ですが、これ自体は悪さをしません。
そもそも歯石とは、歯垢が歯と歯の間や、歯と歯茎の間で硬くなったものです。
ただ、歯石によって歯の表面がザラザラになることで、歯垢がつきやすい環境になってしまいます。
歯垢(プラーク)中は細菌が繁殖しやすく、歯を支える組織(歯肉や歯槽骨など)が破壊や吸収されてしまい、結果として歯を失ってしまいます。
これが歯周病という病気であり、3歳以上の犬のおよそ8割が歯周病予備軍と言われています。
歯周病の症状とは?
歯周病の症状とは、歯石がつくことの他にも、
- 口臭
- よだれが多い
- 歯茎の腫れ
- 歯が抜ける、折れる
- 歯茎から出血する
- 食欲が落ちる
- 食べ方が下手になる
- 硬いものが食べられなくなる
…といったさまざまな症状がみられます。
症状の進行にともなって、くしゃみや鼻水が出たり、眼の下が腫れて穴が開いてしまうこともあります。
また、歯周病菌が血液によって運ばれるこで、腎臓や肝臓などの全身の臓器に悪影響を及ぼすこともあります。
一度ついた歯石は、麻酔をかけないと取れない
一度歯石がついてしまうと、麻酔をかけないと除去ができません。
にもかかわらず、一部の動物病院やトリミングサロンなどでは、無麻酔での歯石除去を行っている場合もあります。
ただし、無麻酔での処置は全く意味がなく、またそれにともなうトラブルも多く発生しています。
なぜなら、無麻酔では歯周ポケットの汚れが取れないだけでなく、無理におさえて行うがゆえ、ケガをしてしまったり、その後の自宅でのケアを嫌がるようになってしまうことが多いからです。
アメリカ獣医歯科学会やヨーロッパ獣医歯科学会においても、無麻酔の歯石除去は推奨されていません。
そのため、歯石除去は、しっかりと麻酔をかけて動物病院で行うようにしましょう。
犬の歯磨きのやり方~3ステップ【口の開け方は?】
愛犬の歯磨きは以下の3ステップで行うことで、上手にできることが多いです。
歯ブラシによる歯磨きが推奨されていますが、ガーゼや指サックを用いた方法でも、口の環境をよくすることが調査により分かっています。
口周りを触ることに慣れさせる
まずは、口周りを触ることに慣れさせましょう。
いきなり口の中に物を入れられたら、私たち人でもびっくりして嫌な気持ちになりますよね。
それはワンちゃんも同じですので、口の周りをさわり、上手にできたらほめておやつをあげるというようにしてみましょう。
また、嫌がる前にやめるということも大事ですよ。
歯磨きシートや指サック、ガーゼを使う
口の周りを触ることに慣れたら、歯みがきシートや指サック、ガーゼなどを用いて歯を磨いてみましょう。
この場合も一気に行うのではなく、嫌がる前にやめて、短時間から慣らすようにしていきましょう。
口は無理に大きく開ける必要はなく、唇をめくって挿入するだけで大丈夫です。
また、歯磨きシートの誤食事故はとても多いです。
誤食してしまった場合には、動物病院ですぐに吐かせる必要があります。
せっかく頑張って歯磨きをしているのに、パクっと飲み込まれてしまい、動物病院で処置を受ける…ということはとても残念ですよね。
そのため、飲み込まれないようにしっかり注意しましょう。
歯ブラシを使う
歯ブラシを使ってできるようになると、とてもいいですね。
特に大きな奥歯(上顎の第4前臼歯、下顎の第1後臼歯)が汚れやすいため、そこを重点的に行いましょう。
内側は難しくてできない場合が多いですので、無理せず外側のみでも大丈夫です。
ペット用の歯ブラシがない場合には、小児用の歯ブラシで代用ができます。
犬の歯磨きは歯磨きガムだけでもいい?効果はある?
どうしても歯ブラシができなくて、歯磨きガムだけで行っている飼い主様も多くいらっしゃいます。
でも、「歯磨きガムだけで大丈夫かな?」という不安があるかなと思われます。
実際のところ、歯磨きガムは歯磨きの補助にしかなりません…
なぜなら、歯磨きガムでは、歯と歯茎の間や歯周ポケットのお掃除ができないからです。
ただ、歯磨きガムをあげないよりは、あげたほうがいいと思われます。
多少なりとも歯垢が取れること、唾液の分泌がよくなることがあるためです。
そして、効果を上げるためには、ワンちゃんに渡して噛ませるのではなく、飼い主様が持って噛ませた方がいいですね。
犬には『利き歯(ききば)』があり、愛犬に渡してしまうと、どちらか片方の歯でのみ噛んでしまうからです。
いろんな方向で噛ませてあげましょう。
歯磨きガムの飲み込みに注意!
歯磨きガムを丸飲みしてしまう事故はよくあります。
のどにつまってしまい、吐きそうなのに吐けない…苦しそう…といったお問い合わせはよくあります。
飲み込んだあとでもケロッとしていれば、おそらく胃に入っていると思われ、その場合は時間経過にともない消化をしますので様子を見てあげるといいですね。
ただし、苦しそう、吐けなさそう、様子が変…といった場合には、動物病院で取り出す処置をする必要があります。
弾力のある歯磨きガムがいい
硬いガムをかませることで、歯が折れてしまう事故も多いです。
歯磨きガムはある程度の大きさがあり、ゴムのように弾力のあるものがおすすめです。
犬の歯磨きは水に入れるタイプやスプレーだけでいい?
水に混ぜるタイプやふりかけタイプなどの歯磨き関連商品も多く販売されています。
実際、『塩化ベンゼトニウムおよびグルコン酸クロルヘキシジンを含有する希薄な口内スプレー』により歯垢がつきづらくなったという報告もあります。
人がガーゼや歯ブラシを用いて磨くことに比べると効果は落ちると思われますが、日ごろのデンタルケアのひとつに加えてみることはいいかもしれません。
歯磨き粉、歯磨きジェルは使ったほうがいい?
歯磨き粉や歯磨きジェルは使ったほうがいいです。
なぜなら、直接歯ブラシを使うよりも、滑りがよくなることで歯垢の除去ができること、また、口腔細菌の増殖抑制効果があるからです。
研磨剤が含まれているとしても、歯や歯茎には影響のない程度ですので問題はありません。
ただし、人用の歯磨き粉はダメです!
人用の歯磨き粉にはキシリトールが含まれていることがあり、ワンちゃんは中毒を起こしてしまう可能性があるからです。
なめた程度なら大丈夫な可能性が高いですが、毎日使用したり、大量にあげたりすることは控えるようにしましょう。
獣医師に歯磨きをしてもらったほうがいい?
動物病院やトリミングサロンで歯磨きを行ってもらうこともいいですね。
飼い主様が行うとうまくできない場合でも、診察台の上では静かにやらせてくれることが多いです。
週に1,2回程度、無理のない範囲で通うことも検討してみましょう。
歯磨きを嫌がるようになった場合は、歯が痛いのかも!?
今まで問題なく歯磨きをさせてくれていた子が、突然嫌がるようになった場合には、歯が痛かったり、口の中に違和感があることがあります。
この場合には、無理に行わず、動物病院で診てもらう必要があります。
レントゲン検査などを行い、場合によっては歯石除去や抜歯術を行うようになります。
歯磨きをすると出血しますが大丈夫?
一般的には、健康な歯茎からは出血しません。
歯茎が弱い状態ですと、少量の出血をすることはしばしばあります。
柔らかいタイプの歯ブラシに変更したり、歯磨き粉の種類を変えてみたり、歯ブラシを小刻みに動かすようにしてみましょう。
歯磨きのたびに出血をする場合には、動物病院で診てもらったほうが安心ですね。
子犬のうちからの歯磨きが重要!
子犬のうちから歯磨きの練習をすることで、成犬になっても嫌がらずやらせてくれることが多いです。
短時間から行い、うまくできたらおやつをあげてほめてあげましょう。
でも、成犬になってからでも、もちろん上手にできる場合も多いです。
上記でお伝えした3ステップにそって無理なく頑張ってみましょう!
犬の歯磨きの頻度は、3日に1回で大丈夫!
犬の歯垢は3~5日ほどで歯石に変わります。
人は15日程度かかると言われているので、犬ではすごい速さで歯石に変わることが分かりますね。
ただ、3日かかるということは、3日以内に歯垢を取ってあげればいいということになります。
そのため、3日に1回の歯磨きを行うだけでも大丈夫です。
「今日は左側だけ」「今日は前歯だけ」など分けてやってもいいですね。
また、この理由のため、歯磨きが終わってからおやつや食事をあげても全く問題ありません。
【まとめ】犬の歯磨きのやり方~嫌がる時は歯磨きガムだけでいい?頻度は?などを獣医師が解説!
愛犬の歯を守るためには歯磨きがとても重要です。
3日に1度でも大丈夫ですので、無理をせず少しずつ慣らしていくようにしましょう。
歯が悪いと、食事が楽しみではなくなるだけでなく、肝臓や腎臓などさまざまな臓器に悪影響を及ぼします。
今日からさっそく愛犬の歯磨きを始めてみましょう!
【参考資料】
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