猫を飼っている方の中には、『妊娠中は、猫からトキソプラズマがうつるから危険!』と思っている方も多くいらっしゃいます。
中には、愛猫と全く触れないようにしたり、手放してしまうことを考える方もいらっしゃいます。
でも実際、猫ちゃんと妊婦さんはそんなにも相性が悪いのでしょうか?
この記事では、猫のトキソプラズマ症について、
- どういった病気なのか?
- 猫が発症するとどのような症状が出るのか?
- 妊娠したときの猫との接し方
などについてお伝えしています。
「猫のトキソプラズマ症について知りたい!」
「妊娠したけど、愛猫と今まで通り暮らしていても大丈夫かな?」
と不安や疑問がある飼い主様は、ぜひ読んでみてくださいね。
目次
猫のトキソプラズマ症とはどんな病気?3つの感染経路
トキソプラズマ症とは、トキソプラズマという寄生虫が猫や人に寄生する病気です。
猫や人への感染ルートとしては、
- トキソプラズマに感染した猫の便に含まれるオーシストを食べた
- トキソプラズマのシストの含まれた生肉、加熱不十分な肉を食べた
- トキソプラズマのオーシストが入った土を食べた
の3つがあります。
以下で分けてお伝えしますね。
①トキソプラズマに感染した猫の便に含まれるオーシストを食べた
トキソプラズマに(初めて)感染した猫が排出する便に含まれるオーシスト(トキソプラズマの卵)を口にしてしまった場合に、感染することがあります。
ただし、排せつされたオーシストが成熟して感染能力を獲得するまでには、少なくとも24時間かかるとされています。
つまり、排せつしたての便に含まれたオーシストには、感染力はないということです。
②トキソプラズマのシストの含まれた生肉、加熱不十分な肉を食べた
トキソプラズマのシスト(休眠状態の卵)の含まれた生肉や加熱不十分な肉を食べた場合にも、感染のリスクがあります。
肉は、牛肉・豚肉・鶏肉…などいわゆる食肉すべてが対象です。
③トキソプラズマのオーシストが入った土を食べた
トキソプラズマに感染した猫の糞便が含まれた土と接触した場合には、感染リスクがあります。
外に出る猫の場合には、土壌や砂場の土、生水(井戸水、湧き水など無処理の生水)などを摂取する可能性があり、注意が必要です。
人の場合は、ガーデニングや土のついた野菜にも注意が必要です。
猫のトキソプラズマ症の症状はたくさんある
トキソプラズマが感染したとしても、ほとんどの猫においては無症状です。
しかし、子猫や免疫不全状態の猫(免疫抑制剤を投与されている猫も含む)においては発症することもあります。
どういった症状が出るかは、『トキソプラズマがどこの臓器に寄生したか?』によって変わります。
すなわち、
- 肺に寄生した場合は、咳や呼吸困難など
- 目に寄生した場合は、ブドウ膜炎や脈絡網膜炎など
- 脳脊髄に寄生した場合は、脳脊髄炎など
- 消化管に寄生した場合は、下痢や嘔吐など
を引き起こします。
猫のトキソプラズマ症の検査と診断は難しい
上記でお伝えした通り、トキソプラズマ症ではさまざまな症状を呈する可能性があるため、診断することが難しい病気です。
確実に診断する方法は、臓器からのトキソプラズマの検出となります。
ただし、少量の検体の場合、虫体(トキソプラズマ)が含まれていない可能性もあり、また、必ずしも感度は高くありません。
そして、脳脊髄液の採取や組織生検などにおいては、侵襲性が高いことも多く、必ずしも実行できるわけではありません。
そのため、血清学的検査を行い、血液中の抗トキソプラズマ抗体の有無や抗体価を測定して、診断の補助とします。
ただし、この血清学的検査においては、無症状でトキソプラズマが潜伏感染している場合でも陽性となるため、解釈に注意が必要です。
(疾患の原因がトキソプラズマではないのに、陽性となったことで、誤診することに注意が必要です。)
検査で陽性となった場合には、間隔をおいて再検査をし、抗体価の上昇がみられるかどうかの確認を行うことが大切です。
また、『診断的治療』といって、治療をして治った(良化した)場合に、トキソプラズマ症であると診断することもあります。
なお、糞便中へのオーシストの排出は、発症前に終了していることがほとんどであるため、診断の意義は少ないとされています。
猫のトキソプラズマ症の治療
トキソプラズマ症が疑われる場合には、抗原虫薬の投与を行います。
通常は、投薬開始から1週間程度で効果が見られます。
効果が見られた場合でも、1カ月程度の投薬を継続することが多いです。
トキソプラズマ症は、基礎疾患があって発症していることも多いため、基礎疾患の治療も同時に行うことが重要です。
猫のトキソプラズマ症の予防
猫がトキソプラズマ症にならないためには、外に出さない、生肉を与えることを控えることが重要です。
妊娠すると猫が飼えない!?猫とトキソプラズマと妊婦さんの関係性
猫のトキソプラズマ症について、飼い主様が気になる点としては、『妊娠中の愛猫との接し方』だと思われます。
人のトキソプラズマ症は、妊娠初期の感染ほど重症化しやすく、妊娠末期ほど胎児への感染率は上がると言われており、注意が必要な病気です。
ただ、猫と接してはいけないというわけではありません。
気をつけないといけないのは、『トキソプラズマに初めて感染した猫の便を、感染したことのない妊婦さんが触って、かつ口に入ってしまったとき』に危険性があるということです。
トキソプラズマに感染したことのある猫の場合には、体の中に抗体があるために、感染源となるオーシストを便中に排出することはありません。
一方で、トキソプラズマに感染したことのない猫の場合には、糞便中にオーシストを排せつすることになり、注意が必要です。
猫が感染しているかどうか?また、いつごろ感染したのか?は、上記でお伝えした通り、血清学的検査などで行います。
そして、トキソプラズマに感染したことのある妊婦さんは、体に抗体があるために、万が一感染したとしても、抗体でやっつけることができます。
その一方で、はじめてトキソプラズマに感染した妊婦さんの場合には、抗体がないために、胎盤を経由して胎児に影響する場合があります。
つまり、猫も人も『はじめてトキソプラズマに感染した場合』に危険性があり、そうならないためにも、以下でお伝えする予防法に基づいて、注意をしてほしいということです。
妊婦さんが感染するとどんな症状が出るのか?
妊婦さん自身が重症化することは少なく、自覚症状がないことがほとんどです。
まれに、リンパの腫れや発熱、頭痛などの症状が出る場合もあります。
そのため、血液検査を行ってはじめて感染を知ることが多いです。
おなかの赤ちゃんが感染するとどんな症状が出るのか?
妊婦さんが感染した場合でも、胎盤を通じておなかの赤ちゃんに感染する割合は3割程度と言われています。
また、赤ちゃんに感染したとしても、必ずしも発症するわけではありません(赤ちゃんに症状が出る確率は、約10~15%程度)。
そのため、母子感染のリスクはそれほど高くないことが分かります。
ただし、万が一発症した場合には、死産や流産、水頭症、脈絡膜炎による視力障害などがあると言われており、注意が必要です。
出生時に無症状だった場合でも、その後成人となるまでの間に、症状を呈することもあります。
感染が分かった後に薬を飲むことで、おなかの赤ちゃんへの影響を減らせることが分かっています。
人のトキソプラズマ症は、抗体検査で感染の有無がわかる
トキソプラズマの抗体検査は、標準的な妊婦検診の検査項目にはありませんが、希望をすれば、自費にて免疫の有無を調べることが可能です。
日本人の妊娠可能女性の多くは、トキソプラズマに感染したことがないと言われています。
つまり、検査結果は陰性となることが多いです。
陰性の場合には、妊娠中に新たにトキソプラズマに感染しないよう、感染源に注意する必要があります。
陽性だった場合には、専門機関で感染時期を推定する必要があります。
妊娠中の感染が疑われる場合には、胎児感染の有無を調べ、必要な場合には治療を行うようになります。
また、猫においても、上記でお伝えした通り、トキソプラズマ抗体の検査が可能です。
猫の抗体が陽性であれば、以前に感染したことがあるということで、すべての妊婦さんにとって問題なく接することができます。
一方で、猫の抗体が陰性である場合には、感染したことがないということなので、トキソプラズマに感染したことのない妊婦さんにとっては注意が必要ということです。
人から人へ、猫以外の動物からはうつらない
トキソプラズマは、人から人へ、また、猫以外の他の動物(犬など)からはうつりません。
妊婦さんがトキソプラズマ症にならないためには~予防法について
妊婦さんがトキソプラズマに感染しないようにするためには、
- 猫のトイレ掃除は手袋をして行う、他の人に行ってもらう
- 生肉や加熱不十分な肉を食べない
- 土いじりは控える、しっかり手を洗う
などがあります。
猫のトイレ掃除は手袋をして行う、他の人に行ってもらう
トキソプラズマには猫の糞便を介して感染する可能性があります。
猫のトイレ掃除は手袋をして行い、掃除が終わったらしっかり手を洗うようにするといいでしょう。
また、他の人に行ってもらうこともいいですね。
猫の糞中のトキソプラズマは、成熟するのに24時間以上かかります。
そのため、トイレ掃除は毎日することで、感染を防ぐことができます。
トキソプラズマは、感染した猫の糞便から人に感染するため、もともと猫を室内で飼っている場合には、(猫がトキソプラズマに新たに感染する可能性は低いため)過度に心配する必要はないでしょう。
そして、しっかり気をつければ、きわめて感染確率は低い病気ですので、猫ちゃんを手放す必要は全くありません。
生肉や加熱不十分な肉を食べない
生肉や加熱不十分な肉は食べないようにしましょう。
トキソプラズマは中心部が67℃以上になるまで加熱することで死滅するため、しっかり過熱をしてから食べるようにしましょう。
また、肉を切った包丁やまな板もしっかり洗うようにして対策をしましょう。
土いじりは控える、しっかり手を洗う
土中に含まれるトキソプラズマのオーシストから感染することもあります。
そのため、ガーデニングや砂場での遊びなど、土いじりした後はしっかり手を洗うようにしましょう。
また、生野菜もしっかり洗って食すようにしましょう。
【まとめ】猫のトキソプラズマ症~妊娠中に気をつけること
猫のトキソプラズマ症は、トキソプラズマという寄生虫が感染し、さまざまな症状を呈する病気です。
猫の糞便を介して人に感染することもあり、妊婦さんでは特に注意が必要です。
猫のトイレ掃除や土いじりをしたあとはしっかり手を洗う、生肉や加熱不十分な肉は食べないようにして対策しましょう!
【参考資料】
- 辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,猫の治療ガイド2020,EDUWARD Press,p807-p809
- 国立感染症研究所 ホームページ
- 育児と乳歯の情報サイト
- 内閣府 食品安全委員会 ホームページ