「ソファーから飛び降りたら、足を上げて(浮かせて)います…」
「後ろ足がピーンとなって曲がりません…」
「突然、後ろ足を引きずっています…」
こういった症状が見られた場合には『膝蓋骨脱臼(パテラ)』の可能性があります。
この記事では、犬の膝蓋骨脱臼について、
- 原因や症状は?
- どんな治療法があるの?
- 予防するためには?
などを分かりやすく解説するとともに、日常生活で気をつけるポイントもお伝えいたします。
「愛犬の足に、痛みや違和感がありそう…」という飼い主様は、ぜひ読んでみてくださいね。
目次
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)は小型犬に多い
膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨(膝のお皿)が正常の位置から外れてしまう、小型犬で多い病気です。
小型犬では、内方脱臼と言い、膝蓋骨が内側に脱臼することが多いですが、大型犬では外側に脱臼(外方脱臼)をすることが多いです。
※内側と外側の両方に脱臼する両方向性脱臼もあります。
犬全体で見た場合、内方脱臼が全体の約90%と多く、特に小型犬においては、約95%が内側に脱臼します。
また、膝蓋骨脱臼を示す犬の多く(約60%)が、両側の膝関節に発生します。
膝蓋骨脱臼は、前十字靭帯断裂と言う、膝関節の中に存在する靭帯が断裂してしまう病気と併発することもあります。
慢性的に膝蓋骨脱臼を呈す中高齢の犬の15~20%程度がなりうるとの報告もあります。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の原因は遺伝かも…
犬の膝蓋骨脱臼は、以下でお伝えする好発品種があることから、遺伝が関与していると言われていますが、明確な原因は分かっていません。
転倒したり、高いところから飛び降りたりしたときなどに生じることもあります。
好発品種
膝蓋骨脱臼の好発品種は、
- トイ・プードル
- チワワ
- ポメラニアン
- ヨークシャー・テリア
- マルチーズ
などの小型犬となっており、柴犬でもよく生じます。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の症状は『跛行と痛み』
犬の膝蓋骨脱臼の症状は、
- 跛行(びっこ)
- 足を上げている、浮かせている、引きずっている
- 足をピーンと伸ばしている
- スキップする、ケンケンする
- 足が曲がらない
- 痛み(キャンと鳴いたりする)
- 散歩が嫌いになる、途中で止まる
- 膝からポキポキ音が聞こえる
- 気にして舐めている
などがありますが、軽度の場合は症状を示さない、また激しい運動をしたあとに一過性に跛行を示すこともあります。
抱っこするとキャンと言う、何となく元気がない…などの分かりにくい症状の場合もあります。
また、犬が突然に後ろ足を上げる原因は、膝蓋骨脱臼以外にもあります。
こちらの記事も参考にしてください。▼
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の診断は、触診とレントゲン検査
膝蓋骨脱臼の診断は、触診や歩き方(走り方)、X線検査で行います。
触診では、脱臼の有無に加えて、
- 脱臼の方向
- 滑車溝(膝蓋骨が収まる溝)の深さ
- 疼痛の有無
- 明かな軟骨損傷の有無
などの確認を行います。
また、以下のグレード分けも同時に行います。
膝蓋骨脱臼のグレード
膝蓋骨脱臼はグレード分けを行うことで、診断(および治療方針)を決定していきます。
Singletonのグレード分類▼
グレード | 膝蓋骨 | 整復 |
1 | 用手にて脱臼 | 可 |
2 | 膝の曲げ伸ばしなどで容易に脱臼 | 可 |
3 | 常時脱臼 | 可 |
4 | 常時脱臼 | 不可 |
参考文献:Singleton WB.The surgical correction of stifle deformities in the dog.J Small Anim Pract.1969 Feb
一般的にグレードが上がるほど重症度が高くなりますが、グレード1の場合にも、強く痛みが生じることもあります。
そのため、グレード分類は、重症度の分類を行うのみであり、治療法を選択するための基準にはならないとする見解も多いです。
(グレード4まで進むと骨の変形がみられることもあり、修復不能な状態になっている場合もあります。)
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の治療は、内科療法(薬)か外科手術
膝蓋骨脱臼があるからといって、みんながみんな手術するわけではありません。
基本的には、内科療法で反応を見て、治らない場合(跛行や痛みなどの症状が強いときや頻度が増加するとき)に手術を行います。
内科療法(保存療法):薬やサプリメント+環境改善
膝蓋骨脱臼の内科療法は、
- 薬(鎮痛剤や消炎剤)やサプリメント
- 安静(運動制限;ケージレスト)
- 減量(適正体重の維持)
などを行い、合わせて環境改善を行います。
使用する薬は主に鎮痛剤や消炎剤で、症状に合わせて1~2週間程度服用して経過を見ます。
またサプリメントには、アンチノールなどがありますが、効果が出るまでには1か月程度かかります。
- 滑らない床にする
- ベッドやソファーへの段差をなくす
- 階段の上り下りをさせない
- 急旋回を避ける
これらの内科療法に反応しない場合には、外科的治療を考慮します。
犬の適正体重については、こちらの記事も参考にしてください。▼
外科手術~いろいろな術式を組み合わせる
膝蓋骨脱臼は、様々な術式を組み合わせて行います。
どの術式を組み合わせるかは、触診やX線検査などを行い決定していきます。
- 滑車形成術:膝蓋骨が本来収まるべき溝を深くすることで、膝蓋骨が動きにくくする術式
- 脛骨粗面転位術(TTT):膝蓋靭帯の付着部の骨を切って移動させることで、膝の伸展軸をまっすぐにする術式
- 内側支帯および筋群の解放:膝蓋骨に付着する筋肉の緊張を緩和して、膝蓋骨が内方へ変位するのを防ぐ術式
- 外側支帯の縫縮:縫合糸を用いて、外側の筋肉にテンションをかけ、筋肉の緩みをなくす術式
- 大腿四頭筋群の分離および再配列
- 関節包再建術
- 大腿骨骨切り・矯正骨切り術
滑車溝形成術:膝蓋骨が収まる溝を作っている▼
脛骨粗面転移術:膝蓋靭帯の付着部の骨を切って外側に転移する手術▼
手術直後や術後数日は、術創の腫脹の軽減と漿液の減少を目的として、アイシング(寒冷療法)を行います。
浮腫を防ぐために、マッサージや圧迫包帯を使用することもあります。
また、疼痛管理や炎症の軽減、感染予防も同時に行います。
膝蓋骨脱臼の手術後は、運動制限をする一方で、全く動かさない状況にすると、筋肉の萎縮や関節可動域の減少が生じるために、術後3,4日目からは、ゆっくりと歩かせる運動を5~10分程度行います。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)~よくある質問
犬の膝蓋骨脱臼はよくある病気で、ネットで調べるといろいろ出てくるので、飼い主様も情報が混乱している場合があります。
Q:手で直した方がいいの?
自宅で脱臼しちゃったときに、手で直してあげた方がいいの?
それに手で戻したとしても、結局また外れます。
Q:サポーターはどうなの?
ネットでサポーター売ってるけど、使っていいの?
Q:レーザーってどうなの?
膝蓋骨脱臼にレーザーを行う動物病院もあるみたいだけど、どうなの?
Q:無治療だとどうなるの?
治療をしないで様子を見ていると、
- 足の骨格が変形してしまう
- 膝の靭帯(前十字靭帯)が損傷し、断裂しやすくなる
- 軟骨が削れてしまい、強い痛みが生じる
といったことが起きる可能性があります。
Q:手術を決めるタイミングって?
膝蓋骨脱臼って診断されたら手術するの?
ただし、症状がなくとも、外科的治療が推奨されるケースもあり、若齢期(3~4カ月齢)、かつ/または中~大型犬、肥満動物といった、体重の大きい症例が該当となります。
Q:再発ってよくあるの?
膝蓋骨脱臼って再発をするの?
手術をしている場合は滅多に再発をしませんが、グレードが高い場合には再発をすることもあります。
手術をしていない場合には、再発は非常に多いです。
鎮痛剤や安静にしても症状が改善しない場合は、外科手術を検討しましょう。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の手術費用と入院期間
費用や入院期間は、病態や動物病院によってかなり変わりますので、術前に主治医の先生にご確認ください。
おおよそ250,000~500,000円程度で行っている動物病院が多いです。
また入院期間は3~7日程度の場合が多いですが、その後も定期的な通院が必要となります。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の予防法【日常生活で気をつけるポイント】
犬の膝蓋骨脱臼については遺伝要因(生まれつき膝蓋骨がおさまる溝が浅いなど)で発症することが多いので、予防をするということは難しいです。
ただ、膝蓋骨脱臼による症状が出にくくするためには、
- 体重を増やさない(膝への負担軽減)
- 床を滑らないようにする
- 足裏の毛を短くカットして滑りにくくする
というようにするといいでしょう。
また、膝関節の関節可動域や関節周囲の筋肉の維持のために、座り立ち運動(立つことと座ることを繰り返す運動)が有効との報告もあります。
うちのトイプードルもパテラがあるので、ジャンプとかよくする部分だけ滑らないシートを敷いてます▼
【まとめ】犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の原因や症状、治療や予防について
犬の膝蓋骨脱臼は、小型犬だとよくある病気です。
ただし、症状がない場合には、手術を行うことはありません。
痛みや跛行などの症状があるときは、鎮痛剤+安静で様子をみるようになります。
治りが悪いときや症状の頻度が増すときは、手術を行い脱臼を直す必要があります。
【参考資料】
- 辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,犬の治療ガイド2020,EDUWARD Press,p686-p688
- VETERINARTY BOARD,EDUWARD Press,21号,2021,1月号