「愛犬が避妊手術を受けたのに、発情行動があります…」
「なんで不妊手術したのに発情が来るのですか?」
「避妊したのに出血します、陰部をなめます…」
などは犬の卵巣遺残症候群である可能性があります。
そんな卵巣遺残症候群について、先日以下のツイートをしました。▼
避妊手術を受けたメス犬やメス猫が、数ヶ月~数年後に発情がみられることがまれにあります。
原因が分からない場合もありますが、卵巣の取り残しや、別の場所に第三の卵巣があったり…などが多い。
手術したのによく鳴く、すり寄る…など発情みたいな行動がある場合にはホルモン検査をするべきです😼— トラまりも@まりも動物病院 (@toramarimo_blog) August 12, 2021
避妊手術を受けたメス犬やメス猫が、数ヶ月~数年後に発情がみられることがまれにあります。
原因が分からない場合もありますが、卵巣の取り残しや、別の場所に第三の卵巣があったり…などが多い。
手術したのによく鳴く、すり寄る…など発情みたいな行動がある場合にはホルモン検査をするべきです
■本記事の内容
- 卵巣遺残症候群とは?
- なぜ卵巣遺残が起きるのか?
- 診断と対処法
愛犬が不妊手術を受けたのに、発情みたいな行動が出る場合には、慌てず読んでみてください。
犬の卵巣遺残症候群とは?
犬の卵巣遺残症候群とは、避妊手術をしたのにも関わらず、卵巣組織が残っていることで発情兆候を起こす病態のことです。
そもそも犬の避妊手術は、卵巣のみを取る or 卵巣と子宮と両方取るのいずれかを行う手術です。
どちらの術式を行うかは、動物病院によって異なります。
いずれの手術を行っても、発情に関するホルモンを放出する卵巣を摘出するため、避妊手術後には発情は絶対に来ません。
しかし、避妊手術をした数か月~数年後に発情兆候を示すことがあり、その場合はおなかの中に機能的な卵巣が残っている可能性があります。
なかには、避妊手術後わずか6週間で発情兆候を示し、卵巣遺残症候群であった犬もいたようです。
根本的な原因は不明
犬の卵巣遺残症候群の原因は、
- 避妊手術のときに、卵巣を一部取り残してしまった
- 避妊手術のときに、卵巣の一部をお腹に落としてしまった
- 異所性卵巣(正常の場所とは異なる位置にある卵巣;副卵巣、多卵巣)
などが考えられています。
異所性卵巣とは,正常卵巣とは異なった場所に発生した卵巣をさし,副卵巣と多卵巣に分類される.副卵巣は正常卵巣に直接あるいは靭帯を介して近くに存在しており,多卵巣は正常卵巣と靭帯を介したつながりを持たずに離れて存在しているものと定義されている.
引用:木林 潤一郎,卵管采に発生した異所性卵巣内膜症性嚢胞により卵管捻転を来たし腹腔鏡下に治療し得た一例,日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(3) 287-287, 2009
この中でも、より深くにある右の卵巣での発生が多いことから、手術時の取り残しが最も多いのでは?とされています。
症状は陰部の腫大、出血など
いわゆる発情のときと同じような症状が出ます。
- 発情出血をする(子宮がわずかでも残っている場合に見られる)
- 外陰部の腫大
- 外陰部をよく舐める
- いろんなところでおしっこをする
- オス犬に反応する
- タオルや人に腰をふる
- 甘えん坊になる
卵巣のみの不完全摘出の場合、子宮蓄膿症になって気づかれることもあります。
発情ではなく上記のような症状が出る場合もあるので、周期性があるのか?どういったタイミングで出るのか?なども確認するようにしましょう。
ホルモンの値を測定して診断する
発情兆候が現れることに加えて、血中の性ホルモン値を測定して診断します。
発情兆候が見られ、黄体期と思われる時期に採血を行い、血中プロジェステロン値を測定します。
プロジェステロンは黄体からしか放出されない性ホルモンなので、この値が1ng/ml以上あると卵巣遺残が確定します。
また、同時に超音波検査(やCT検査)で遺残卵巣の確認を行います。
手術で遺残卵巣を摘出する~場合によってはホルモン治療
卵巣遺残症候群の治療は、再手術を行って残っている卵巣を摘出することになります。
手術は卵巣の確認ができるように、大きく硬くなった黄体がある時期に行うようになります。
卵巣は、本来ある位置に存在する場合がほとんどですが、大網など別の場所に存在する場合があるので、術前におおよその位置の検討をつけておくことが大切です。
また、術野を大きく確保し、手術中に腹腔全体を見ることも大切です。
発情行動を抑えたいけど再手術を望まない(年齢や病気でできない)場合には、ホルモン治療(注射や投薬)によって経過をみることもあります。
ただし、発情抑制薬には副作用もあるため注意が必要です。
【まとめ】犬の卵巣遺残症候群
犬の卵巣遺残症候群は、避妊手術をしたのにも関わらず、卵巣が体の中に残っている状態です。
手術時の取り残しや、第三の卵巣の存在が考えられます。
発情行動がみられたあとの黄体期のホルモン値にて診断します。
再手術による治療が適用ですが、場合によってはホルモン治療で経過をみることもあります。
避妊手術を受けたのに発情の様な行動が見られる場合には、主治医の先生に確認してみましょう。
【参考資料】
- Rebecca L Ball,Stephen J Birchard,Lauren R May,Walter R Threlfall,Gregory S Young,Ovarian remnant syndrome in dogs and cats: 21 cases (2000-2007),J Am Vet Med Assoc.2010 Mar 1;236(5):548-53. doi: 10.2460/javma.236.5.548.
- Ned J Place, Jeri-Lyn Cheraskin, Betty S Hansen,Evaluation of combined assessments of serum anti-Müllerian hormone and progesterone concentrations for the diagnosis of ovarian remnant syndrome in dogs.,JOURNAL OF THE AMERICAN VETERINARY MEDICAL ASSOCIATION(アメリカ獣医学協会雑誌)May 2019;254(9)
- Philip D. Pacchiana, DVM, and Margaret V Root Kustritz, DVM, PhD, DACT,Theriogenology Question of the Month,J Am Vet Med Assoc 220[10]:1465-1467 May 15’02 Case Report 6 Refs
- 木林潤一郎,石川哲也,市原三義,森岡幹,奥田剛,長塚正晃,岡井崇,卵管采に発生した異所性卵巣内膜症性嚢胞により卵管捻転を来たし腹腔鏡下に治療し得た一例,日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(3) 287-287, 2009
- 辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,犬の治療ガイド2020,EDUWARD Press,2020