「抗がん剤治療をすすめられたけど、副作用とか怖そう…」
「抗がん剤治療は、愛犬にとってつらい治療なのですか?」
「抗がん剤をやれば治るのですか?」
抗がん剤治療と聞くと、副作用がつらそうなイメージがありますよね。
■本記事の内容
- 抗がん剤治療(化学療法)とは?
- どんなとき使用するのか?効果はあるのか?
- 副作用はどれくらい出るのか?
犬の寿命は延びており、がんになってしまう子もとても多くいます。
抗がん剤治療が必要になった場合や、将来の愛犬の万が一に備えて、ぜひ読んでみてください。
※抗がん剤治療は副作用が出て、費用もかかる治療です。治療をするのか?しないのか?は、しっかり主治医の先生とご相談をし、飼い主様自身で決めるようにしましょう。
目次
抗がん剤治療(化学療法)とは?
抗がん剤治療とは化学療法ともいわれ、抗がん剤を使用した治療法のことです。
がんの治療方法は症例によって様々で、
- 外科治療(手術)
- 放射線治療
- 薬物療法
を組み合わせて行います。
その中の薬物療法には、
- 殺細胞性抗悪性腫瘍薬(いわゆる抗がん剤)
- ホルモン関連薬(ホルモン剤、ホルモン拮抗薬;乳がんや前立腺がんで使用)
- 分子標的薬
- 免疫チェックポイント阻害剤
- 免疫・生体反応薬(インターフェロンやインターロイキンなど)
といった様々な治療法があります。
そもそも、抗がん剤とは、がん細胞が増えるのを抑制したり、成長を遅らせたり、転移や再発を防ぐために使用する薬です。
その抗がん剤を使用した『抗がん剤治療』とは、手術や放射線のように局所的(部分的)に行う治療とは異なり、注射や飲み薬で体全体に薬を巡らせて治療する方法です。
全身に一気に作用することができますが、しこりなど、どこか一部分に高濃度に作用させるということはできません。
そのため、体全体に『副作用』が出てしまいます。
抗がん剤治療による副作用~どんな症状がどんな時期に出るのか?
そもそも、抗がん剤は『増殖の盛んな細胞』に作用する薬です。
腫瘍(がん)細胞は、無秩序に増殖している細胞の集まりなので、抗がん剤が作用を示します。
一方で、正常な細胞でも細胞分裂を盛んに行っている場所はあり、これらの場所にも抗がん剤が作用してしまいます。
- 骨髄(白血球や赤血球を作る場所)
- 口や胃、腸などの消化管粘膜
- 毛包
これらの場所にも抗がん剤が作用することで、
- 骨髄抑制(骨髄の機能が落ちてしまい、白血球や血小板が減少して、感染症や出血傾向となりやすい)
- 消化管粘膜の障害により、食欲低下や下痢、嘔吐
- 口の粘膜がただれて口内炎
- 毛包の障害により脱毛(犬ではそんなに顕著ではない)
といった副作用が出てしまいます。
これらの副作用はおおよそ出る時期が決まっており、
- 消化器の症状→投与初日~2日後くらい
- 骨髄抑制→投与1週間~10日後くらい※
となることが多いです。
(※ロムスチンやカルボプラチン+パクリタキセルは10~14日後、ビンクリスチン、ビンブラスチンでは4~7日後と抗がん剤によって前後します。)
投与してから1週間後くらいに熱が出たという場合には、おそらく骨髄抑制のためと思われます。
また、抗がん剤には、とてもたくさんの種類があり、それぞれに固有の副作用があります。
犬で使用する主な抗がん剤の固有の副作用は、以下の通りです。
- L-アスパラキナーゼ:アレルギー反応として蕁麻疹、嘔吐や下痢、低血圧
- ドキソルビシン:強度の痒み、嘔吐や頭部の震え、心臓毒性、腎毒性(猫)、漏出で局所皮膚毒性
- シクロフォスファミド:無菌性出血性膀胱炎
- シスプラチン(犬):腎毒性
- ビンブラスチン:漏出で局所皮膚毒性
- ビンクリスチン:漏出で局所皮膚毒性、末梢神経障害
- ロムスチン:肝毒性
局所皮膚毒性とは、血管内投与する抗がん剤が血管外に漏れてしまうと出る副作用のことです。
動物の場合、どうしても抗がん剤投与中に動いてしまう危険性があるため、投与は慎重に行う必要があります。
これら抗がん剤の副作用が強く出てしまっている場合には、使用を延期または減量する必要があるため、副作用のチェックはとても重要です。
副作用のチェックのためには熱を測ることも大切で、これは家庭でもできるので、行うといいでしょう。
副作用の有無は、嘔吐や下痢、食欲不振などの犬の状態をみるだけでなく、血液検査を行ってのチェックも行います。
血液検査でのチェック
上記でお伝えした通り、抗がん剤には『骨髄抑制』という副作用があります。
抗がん剤の投与予定日に、好中球数や血小板数が基準となる値を満たしていない場合には、投与の延期が必要となります。
一つの基準として、
- 好中球数が2,000/μL以上
- 血小板数が75,000/μL以上
- ロムスチンやカルボプラチンのように骨髄抑制が非常に強い抗がん剤は、好中球数3,000/μL以上、血小板数100,000/μL以上
が投与続行の基準となり、これ以下の場合には延期となります。
上記を満たしており、投与する場合において、
- 副作用が強い
- 腎障害や肝障害が出ている
場合には、目安として20~25%(場合によっては50%)程度の薬剤の減量を行います。
ただ、犬や猫の場合は、みなさまが想像するより副作用が軽度である傾向があります。
というのも、動物における抗がん剤治療は、『完治を目指すというよりも、生活の質を維持すること』が目的となる場合が多いためです。
抗がん剤の副作用で体を激しく消耗してしまうことは、動物医療においてはベストな治療とは言えないからです。
そのため、できるだけ副作用を減らして、家での生活をさせてあげることが動物医療での抗がん剤の使用目的となります。
抗がん剤はどんなときに使用するの?やると治るの?
上でお伝えした通り、抗がん剤は全身に作用する薬です。
そのため、
- 全身性のがん(白血病やリンパ腫など)
- 転移があるとき
- 転移の可能性があるとき
- 転移を予防するとき
などに用います。
このようながんに対して抗がん剤を投与することで、がん細胞の増殖が抑制され、腫瘍の縮小や成長を遅らせることが期待されます。
抗がん剤によって腫瘍を完治させることは難しいですが、
- リンパ腫
- 多発性骨髄腫(リンパ腫の一種)
- 組織球性肉腫(悪性組織球種;白血球の一種のがん)
などでは、寛解(見た目の病変の消失)が目指せることも多いです。
また、抗がん剤単独での寛解は難しい場合でも、
- 外科療法との併用により生存期間の延長を目指せる
- 病変の維持や進行の抑制を期待できる
場合にも使用します。
例としては、
- 移行上皮癌(尿路にできるがん)
- 肛門嚢アポクリン腺癌(肛門腺にできるがん)
- 血管肉腫(血管から発生するがん;犬で多い)
- 骨肉腫(骨のがん)
- 卵巣腫瘍
といったもので、抗がん剤の効果が期待されます。
生存期間は症例の状態や報告によっても異なりますが、
- 多中心型リンパ腫:無治療→MST4~6週程度、抗がん剤使用→MST10~13か月
- 脾臓の血管肉腫:脾摘のみ→MST1~3か月程度、抗がん剤使用→MST5~6か月
- 移行上皮癌:無治療→MST2か月程度、外科手術+抗がん剤使用→MST12~15か月
と、抗がん剤を使用することで延長する傾向があります。
また、根治や寛解が望めない場合でも、
- QOL(生活の質)を維持するため
- 痛みや出血など症状の緩和のため
などと、がんと一緒に長く生きることを目的としても使用されます。
抗がん剤の特徴と種類~他の薬にはない使い方
抗がん剤は他の薬とは異なり、可能な限り高用量の投与をする(maximum tolerated dose:MTD)必要があります。
というのも、副作用を恐れて投与量を下げると、効果が期待できなくなってしまうからです。
副作用は必ず出るものとし、副作用以上に効果が期待される場合にのみ使用すべき薬です。
また、抗がん剤の投与量は、体重ではなく体表面積によって決める必要があります。
抗がん剤は単独の薬剤を使用する場合と、作用機序の異なる薬剤を組み合わせて使用する(多剤併用)場合があります。
多剤併用することで、抗がん作用の相乗効果が得られるとともに、個々の薬剤の量を抑えることができ、副作用を最小限にとどめることが可能です。
抗がん剤は、がんを見つけた初期や手術後、微小転移巣の治療など、腫瘍負荷が小さい(腫瘍が小さい)ときに最も効果があります。
このように、抗がん剤治療は、他の薬物の使用方法とは異なる点がいくつかあるのが特徴です。
抗がん剤の種類は大きく分けて、
- 葉酸拮抗薬(メトトレキサート、アザチオプリンなど)
- 白金製剤(シスプラチン、カルボプラチンなど)
- アルキル化薬(シクロフォスファミド、ストレプトゾトシン、クロラムブシル、メルファラン、ロムスチンなど)
- 抗がん性抗生物質(ブレオマイシン、ドキソルビシン、ミトキサントロンなど)
- トポイソメラーゼ阻害薬(エトポシドなど)
- 微小管阻害薬;タキサン(パクリタキセルなど)
- 微小管阻害薬;ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチンなど)
- ホルモン類似薬(レトロゾールなど)
- 酵素製剤(L-アスパラキナーゼなど)
…に分けられます。
ほとんどは静脈内投与の薬剤ですが、飲むタイプや皮下注射で用いるものもあります。
使用する薬剤や投与方法・間隔などは、腫瘍の種類や体の状態によって決まります。
そのため、同じ種類の腫瘍であっても、異なる薬剤を使用するケースもあります。
抗がん剤治療は支持療法も大切
抗がん剤は副作用が出る治療です。
ただし、上記でお伝えした通り、抗がん剤によって、いつ副作用が出るのかのおよその検討がつきます。
そのため、時期にあわせて、吐き気止めや下痢止め、抗生物質などを投与する場合が多いです。
また、腎障害や肝障害がある場合には、点滴をして対応することもあります。
費用は高くなる傾向がある
抗がん剤の費用は、一般的な治療に比べると数万円程度と高くなる傾向にあります。
というのも、抗がん剤は特殊な薬であり、また使用するものはおおよそ『人間用の薬』です。
サイズも人間用に作られているので、例え少量しか使わなくても、開封後は廃棄せざるおえない場合が多いためです。
また、抗がん剤は安全域が非常に狭い薬であるため、間違えて過剰投与をすると亡くなってしまうこともある怖い薬です。
そのため、使用にあたっては、調合や投薬に細心の注意をはらう(風や揺れのない調合環境、確実な希釈、ダブルチェックなど)必要があるため、費用は高くなる傾向にあります。
抗がん剤を使用した場合の家での過ごし方
愛犬が抗がん剤治療を行っているときに、家でできる最大のことは『ゆっくり休まさせてあげること』『しっかり様子をみてあげること』です。
ワンちゃんにとって最も安心できる場所である家で休むことは、副作用の緩和にもつながります。
また、抗がん剤投与の当日から翌日にかけては、『腫瘍崩壊症候群』という、大量のがん細胞が短期間で壊された場合に、がん細胞の死がいなどによって起こる様々な症状にも注意が必要です。
おしっこが出ているか?ぐったりはしていないか?などをよく見てあげるようにしましょう。
また、排せつ物の処理をしっかり行うことも重要です。
排せつ物には、微量ではありますが抗がん剤の成分がでているため、抗がん剤投与後2~3日間は、マスクやグローブをつけて処理するようにしてください。
【まとめ】犬の抗がん剤治療(化学療法)の副作用や効果、費用などを解説
犬の寿命が延びるにつれて、がんになってしまう子も多くなりました。
抗がん剤治療は、がんの薬物治療の一つであり、様々な腫瘍に使われます。
一般的には、食欲不振や嘔吐・下痢といった副作用が出ることが多く、その管理も一緒に行っていく必要があります。
愛犬の状態をよく観察して、不安や疑問がある場合には、主治医の先生としっかりお話をしてください。
【参考資料】
- 抗がん剤の基礎の基礎,CLINIC NOTE,No140,2017,MAR
- 古瀬 純司,がん化学療法の薬 はや調べノート,メディカ出版,2021
- 辻本元 小山秀一 大草潔 中村篤史,犬の治療ガイド2020,EDUWARD Press,2020