犬の乳腺にしこりがあって動物病院に行ったら、
「避妊手術も同時にしましょう!」
って言われることはよくあります。
「なんで乳腺腫瘍なのに、避妊手術も一緒にするの?」
っていうのは当然の疑問です。
この記事では、
- 乳腺腫瘍と避妊手術を同時にする理由
- 避妊手術を同時にするメリット・デメリット
などを、獣医療に携わって20年の当サイト管理人の獣医師トラまりもが分かりやすく解説いたします。
目次
犬の乳腺腫瘍の手術を避妊手術と同時にする理由
犬の悪性乳腺腫瘍の原因は、ホルモンと考えられています。
犬では初回発情前(おおよそ半年齢くらい)に避妊手術を行うと、将来乳腺腫瘍の発生が1/200に低下すると言われています。
初回発情後の避妊手術でも1/12.5に低下するので、早期の避妊手術は将来的な乳腺腫瘍の発生を予防できることになります。
(参考:Schneider R, Dorn CR, Taylor DO. Factors influencing canine mammary cancer development and postsurgical survival. J Natl Cancer Inst. 1969;43(6):1249-1261.)
成長後の避妊手術においても、卵巣子宮摘出術が新しい良性乳腺腫瘍の発生を有意に低下させることが報告されているので、避妊手術と乳腺腫瘍の手術は同時にすることが推奨されます。
乳腺腫瘍の手術と避妊手術を同時にするメリット
乳腺腫瘍の手術と避妊手術を同時にするメリットは2つあります。
- 良性の乳腺腫瘍だった場合は、残っている乳腺での再発が抑えられる
- 卵巣と子宮の病気にかからない
乳腺腫瘍ができるような高齢のメス犬では、子宮や卵巣にも異常をきたしていることが多い(約64.3%)ので、避妊手術を同時に行うことが多いです。
乳腺腫瘍の手術と避妊手術を同時にするデメリット
2つの手術を同時に行うので、手術時間が長くなります。
麻酔の影響も考慮して、避妊手術も同時に行うべきか判断していきます。
乳腺腫瘍の手術と避妊手術を同時にしない場合もある
ホルモンに関係した乳腺腫瘍の場合は、ホルモンが出る部分である卵巣をとる事で(避妊手術をすることで)、再発には一定の効果があるといえます。
ただし、ホルモン以外にも原因がある乳腺腫瘍もあるわけで、その場合には避妊手術を同時にする意味はなさそうです。
犬の乳腺腫瘍において、悪性腫瘍は良性腫瘍に比較してホルモンのレセプター(受容体)の発現率が低いとされています。
(参考:犬における乳腺腫瘍の病態ステージと腫瘍組織中エストロゲンおよびプロゲステロンレセプター濃度)
基本的に、避妊手術を同時にする場合には、寿命を延ばしたいということが根底にあるので、
- 長期の生存が見込めない場合
- 麻酔のリスクが大きい場合
- 転移している場合
などは、同時に避妊手術をしないことが多いです。
【まとめ】犬の乳腺腫瘍の手術は避妊手術と同時にする
犬の乳腺腫瘍の手術は、避妊手術と同時にすることが多いです。
それは生殖器からのホルモンが乳腺腫瘍に関わっているからです。
ただし、高齢で麻酔のリスクが高いことが予想されたり、子宮や卵巣に何らかの異常がないと予測される場合などは、同時に避妊手術をしないこともあります。