「愛犬が血小板減少症と診断されました…」
「治療で抗がん剤を使っているのですが、大丈夫ですか?」
「助かる病気なんですか?」
など、愛犬が血小板減少症と診断されたら、大丈夫かな…と不安になってしまいますよね。
■本記事の内容
- 犬の免疫介在性血小板減少症の原因や症状
- 具体的な治療法
- 治る病気なの?再発するの?
犬の免疫介在性血小板減少症は、意外とよくある病気です。
愛犬が「血小板減少症」と診断された場合には、読んでみてください。
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目次
犬の免疫介在性血小板減少症(IMT)の原因
犬の免疫介在性血小板減少症は、自身を外敵から守るはずの免疫(抗体)が、間違って自分の血小板を攻撃してしまい、壊してしまう病気です。
血小板が減少する病気はたくさんありますが(骨髄の病気、出血、ウイルス感染、DIC、薬の投与…)、そのうち自分の免疫が原因で血小板が減少する病気がIMTです。
結果として、血小板が減少してしまい、血を固めることができず、ひとたび血管が切れてしまうと、出血が止まらなくなり様々な問題が生じます。
IMTの原因として、原発性と二次性があります。▼
- 原発性:血小板の膜に対する抗体が作られる
- 二次性:何かしらの基礎疾患(何か炎症・感染や腫瘍がある)がもとで発症する
死亡率は~30%程との報告があり、重度の症例においては入院として治療を始め、慎重な経過観察が必要となります。
IMTと同時に赤血球も破壊される病気(免疫介在性溶血性貧血;IMHA)を発症することもあり、これを「エバンス症候群」と呼び、より死亡率が高く治療が難しくなります。
症状は皮下出血・鼻血など「血が止まらない」
血小板が減ってしまうので、うまく血を固めることができないことから、
- 皮下出血
- 紫斑(あざ)
- 鼻血
- 血尿
- 血便や黒い便(メレナ)
- 吐血
- 目の中の出血
など様々な出血がみられます。
皮膚病かな?どこかにぶつけちゃったかな?と勘違いされることもあり、注意が必要です。
犬の免疫介在性血小板減少症の診断~検査内容と数値
血小板(PLT)がゼロもしくは非常に少なくなっている(0~5万/μl以下程度)ことで異常に気が付きます。
犬の免疫介在性血小板減少症を診断するためには「除外診断」が重要です。
つまり、血小板が減ってしまう他の原因、例えば、
- 技術的な問題(採血に時間がかかった、EDTA依存性凝集;抗凝固剤のせい)
- 骨髄疾患
- 先天性の巨大血小板性血小板減少症(キャバリア、ケアーンテリアなどは血小板が低く出ることがある;通常治療の必要なし)
- 大量出血による喪失
- 薬や毒物による影響
- DIC(播種性血管内凝固)
- 感染症(バベシア症、エールリヒア症、アナプラズマ症など)
- ※柴犬やグレイハウンドでは血小板が基準値を下回る個体あり(機序不明)
などをレントゲン検査やエコー検査…などを使って除外していき診断します。
血液検査では、血小板以外の血液凝固因子(血液を固める成分)の不足がないかどうかもあわせて確認します。
PT(プロトロンビン時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、フィブリノーゲン、FDP、Dダイマーといった項目を調べていきます。
治療に反応しない場合には、骨髄生検をする場合もあります。
IMTの治療法~免疫抑制+場合によっては輸血も
犬の免疫介在性血小板減少症の治療については、ステロイド(プレドニゾロン)を中心とした免疫抑制薬が使われます。
犬の原発性免疫介在性血小板減少症においては、約70%以上の症例がステロイドに反応して、1週間以内に5万/μl以上に増加するとされています。
ただし、プレドニゾロンは48~72時間以内に反応がみられます(←遅い…)。
重症例やこの期間で血小板の増加がみられない場合には、ヒト免疫グロブリン製剤;hIVIG(ガンマガード)を投与して、免疫をブロックし、血小板を壊されないように対処します。
ヒト免疫グロブリン製剤がIMTによる血小板の破壊に対して、一時的に防御してくれている間に、プレドニゾロンや免疫抑制剤が効果を発揮するのを待つことになります。
プレドニゾロンとともに免疫抑制薬を投与することで、免疫抑制効果を強め、また、ステロイドの減薬につながります。
- シクロスポリン
- アザチオプリン
- ミコフェノール酸モフェチル;セルセプト
難治性のIMTに対しては、ある種の抗がん剤(クロラムブチルやエンドキサン;シクロホスファミド、ビンクリスチンなど)や抗リウマチ薬(レフルノミド)を使用することもあります。
血小板が少なく、出血を呈している場合には輸血をする場合もあります。
再発を防ぐために、脾臓の摘出手術をすることもあります。
安静も大切
上記の治療に合わせて、安静にすることも大切です。
出血しやすい状況なので、なるべくケージで生活させ、ぶつからないようにしたり、過度の運動はしばらく控えた方がいいでしょう。
費用はどれくらい?
動物病院や病状によりますが、輸血やヒト免疫グロブリン製剤、免疫抑制剤の費用は高価なため、数万円~数十万円はすると思われます。
完治する?予後は?再発するの?
再発率は30%程度あり、寛解した症例についても慎重に経過観察をする必要があります。
寛解例に対する治療継続についてのプロトコールは存在しないですが、一般的には寛解後も3~6か月の(薬を減らしながらの)治療継続が推奨されています。
このまま治療をやめて治る(完治する)可能性もありますが、再発する可能性もあります。
【まとめ】犬の免疫介在性血小板減少症の原因や治療法を獣医師が解説!
犬の免疫介在性血小板減少は、血小板が突如として減少してしまう病気で、臨床で意外とよく遭遇する病気です。
除外診断を行い、ステロイドなどの免疫抑制薬を中心に治療していきます。
出血が強い場合には、輸血をする場合もあります。
命に関わることもある怖い病気ですが、早期発見で初期治療が適切に行われれば、大いに助かる病気です。
日頃から愛犬の体をよく触り、よく見てあげて、変調がないかを確認してあげてください!
【参考文献】
- 山下 時明 山下 律子,犬の原発性免疫介在性血小板減少症(pIMTP)に関する回顧的調査,北獣会誌 60,183~186(2016)
- 大野耕一 他,レフルノミド投与を行った難治性免疫介在性血小板減少症の犬の1例,日獣会誌56, 669~672 (2003)
- 久末正晴 他,免疫 グロブリン静脈内投与療法および脾摘が有効であった特発性血小板減少性紫斑病の犬の1例,日獣会誌61,223~226(2008)
- Hohenhaus A,White C,Disorders of platelet number,BSAVA Manual of Canine and Feline Haematology and Transfusion Medicine 2nd ed.(Day MJ,Kohn B eds.),Gloucester,BSAVA,2012,pp.201-15.