ペットも高齢化が進んでおり、多くの動物が悪性腫瘍(がん)で亡くなっています。当院では、抗がん剤や外科的手術を中心に積極的に治療を行っております。また、放射線治療が必要な症例については、二次病院をご紹介することも可能です。
腫瘍には良性のものと悪性のものがあります。切除のみで治るものや、様々な抗がん剤を組み合わせたり、放射線で治療するものまで様々あります。悪性腫瘍に関しては、全ての症例が治るというわけではありません。また、生存期間をただ延ばすことが賢明であると言えない場合もあります。
症例ごとに様々な治療法をご提案し、また治療を選択されない場合でも、対症療法により良い生活を送れるように努めます。
- 皮膚にしこりやできものがある
- おっぱいに何かある
- 食欲や元気が落ちてきた
- 痩せてきた
- 下痢や嘔吐を繰り返す
- 顎の下やひざの裏など(リンパ節)が腫れている
- おなかが大きくなった気がする
- 排便・排尿がしづらくなった
- くしゃみや鼻血が増えた
腫瘍(できもの、しこり)に対しての診断は、問診や触診も重要です。
- いつからあるのか
- 大きくなってきているのか
- 赤みや腫脹の有無
- 本人は気にしているのか
などを確認していきます。
また、食欲や元気の有無、体温やリンパ節の状態など全身状態を確認し、体の中の変調がないかもみていきます。
腫瘍に伴い、腎臓や肝臓など全身状態の異常がないか、また腫瘍切除の術前検査として血液検査を行います。腫瘍によっては、貧血や高カルシウム血症を伴うこともあります。
血液検査では分からない各種臓器の確認をします。
エコー検査を行うことで、腎臓や肝臓、膀胱など腹腔内の臓器の状態、転移の状況などが分かります。また、レントゲン検査によって、肺や骨の状態(転移の有無など)の確認を行います。
より詳しい検査を必要とする場合は、CT検査を行うこともあります。
体表や腹腔内の腫瘍に関しては、細い針を使って細胞を採取し、顕微鏡で観察する「細胞診」を行います。
細胞診では、リンパ腫や肥満細胞腫などの腫瘍の診断ができます。細胞診で診断ができない場合や、より多くの情報を確認したい場合は、大きめに腫瘍を取る「パンチ生検」を行います。
基本的には無麻酔で行いますが、パンチ生検の場合は鎮静剤を使うこともあります。
腫瘍を一部分もしくは全て摘出し、病理組織検査を行うと確定診断ができます。腫瘍の場所や予想される腫瘍の種類によって切除範囲や方法が異なります。
骨髄生検は、骨の中にある骨髄組織をとる検査です。通常の血液検査では見ることのできない部分まで確認できるので、骨髄の病気や腫瘍が疑われる場合や造血機能が落ちている場合などの診断や治療において重要な検査です。痛みを伴う検査なので、全身麻酔で行います。
犬の乳腺腫瘍
犬の乳腺腫瘍は、中高齢の未避妊メスにおいて最も一般的に認められる腫瘍です。良性腫瘍と悪性腫瘍の比率は1:1といわれ、悪性腫瘍のうちの半数がより悪性の挙動をします。乳腺腫瘍の原因は多々ありますが、ホルモンによるところが多いです。
そのため、乳腺腫瘍を予防するためには、早期の避妊手術が望まれます。治療の第一選択は、炎症性乳がんを除けば外科的手術です。切除範囲は、年齢や腫瘍の大きさ、発生部位によって異なります。すでに転移がある場合は、化学療法を中心に行いますが、緩和目的で外科的切除を行う場合もあります。
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は、80~90%が悪性の挙動を示します。そのため単発性の腫瘍であっても、広範囲の乳腺切除(片側あるいは両側乳腺全摘出)を行う場合が多いです。
症例の年齢や持病の有無などにもよりますが、術後に化学療法を行います。
犬と同様、早期の避妊手術によって乳腺腫瘍の発生率が低下します。
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍では最も発生頻度が高く、猫の皮膚腫瘍では2番目に多い悪性腫瘍です。犬と猫の肥満細胞腫は、挙動や治療・予後について大きな相違がみられます。
犬の肥満細胞腫は、
- ほとんどが皮膚に発生
- 腫瘍の形態はさまざま(大きいもの、硬いもの、たくさんあるもの…)
- 成長のスピードが腫瘍によりまちまち
- リンパ行性で転移する
などの特徴があります。
一方で猫のリンパ腫は、
- 皮膚と内臓に発生し、その比率は1:1
- 皮膚の肥満細胞腫は、内臓で発生した肥満細胞腫の転移である場合もある
- 犬と違い、緩やかな経過をたどることが多い
などの特徴があります。
肥満細胞腫は、外科的切除が第一選択で、放射線療法や化学療法を併用することもあります。また、分子標的薬という高い治療効果と低い副作用が期待される経口の抗がん剤を用いることもあります。
血液中のリンパ球が腫瘍化してしまったものがリンパ腫です。犬のリンパ腫の原因は不明で、リンパ腫の約80%が体のリンパ節の複数が腫れる多中心型と呼ばれます。
一方で猫のリンパ腫は、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスの感染と密接に関係があります。治療は化学療法で行い、リンパ腫細胞の形態をもとにプロトコールを決めていきます。
肛門周囲腺腫は、男性ホルモンであるテストステロンの刺激で生じる良性の腫瘍です。そのため、去勢手術をしていない高齢のオスでよく見られます。
肛門周囲腺はイヌ科の動物にみられ、猫には存在しません。腫瘍の摘出手術と同時に去勢手術を行うことで治療します(去勢手術単独で治癒することもあります)。
口腔内腫瘍には、
- 扁平上皮癌
- 悪性黒色腫
- 繊維肉腫
- エプーリス
といった腫瘍がよくでき、うち上の3つは悪性腫瘍です。基本的に外科的切除で治療を行いますが、部位によっては化学療法や放射線治療も併用して治療します。
犬において移行上皮癌は、尿路に発生する腫瘍の70~80%を占め、遭遇することの多い膀胱の悪性腫瘍です。移行上皮癌は、BRAF遺伝子検査という特殊な検査により診断ができます。
犬の移行上皮癌は、周囲組織に浸潤・播種しやすく、高率に所属リンパ節や肺に転移します。その特性上、外科的治療で完全切除することが困難な場合が多く、内科療法で経過をみることも多いです。
骨肉腫は犬の原発性骨腫瘍で最も多く、85%以上を占めます。
また骨肉腫の約75%が四肢に発生しますが、転移が高率で発生し、断脚のみでは90%以上が1年以内に転移によって死亡します。
そのため、断脚に化学療法を加えて治療することが多いですが、それでも根治率が高いとは言えません。骨肉腫は痛みを伴うことが多いため、疼痛管理も合わせて行います。